研究課題
通常の磁気秩序系では、角運動量1を運ぶマグノンが伝播することでスピン流や熱流を生じることが知られている。一方、スピン多極子状態では、多マグノン束縛状態を形成するため、マグノンクラスターがまとまって多くの角運動量を運ぶと考えられる。本研究は、マグノンクラスターの流れによるスピン伝導・熱伝導の特性を明らかにすることを目的としている。フラストレート強磁性鎖で発現する四極子(2マグノン)、八極子(3マグノン)といった一連のスピン多極子液体に着目して、輸送特性と磁気特性を数値計算で系統的に調べた。スピン流の流れやすさの指標としてスピン流相関関数を解析した。素朴には、まとまって運ばれる角運動量が増えるにつれてスピン伝導が増大すると期待されるが、多マグノン状態への転移点をまたいでスピン流相関が急激に減少することが分かった。エネルギー流相関関数についても同様の特徴を見出した。輸送特性と磁気特性の関連を解明するため、スピン、四極子、八極子の励起スペクトルを解析した。多マグノン状態に移行するにつれて分散構造がより平坦になる特徴を見出した。上述の輸送特性は、3マグノンクラスターの方が2マグノンクラスターより多くの角運動量を運ぶものの、分散構造の傾きで与えられる伝播速度が小さく、全体として流れる角運動量が減少すると解釈できる。スピン伝導・熱伝導のメカニズムを視覚的に捉えるアプローチとして、マグノンクラスターの波束の伝播ダイナミクスを調べた。スピン流と熱流の結合効果であるスピンゼーベック効果を研究するため、熱的純粋量子状態の方法で有限温度特性を調べる計算コードを開発した。また、四極子励起を観測する有力な実験手法として、共鳴非弾性X線散乱に着目した研究に取り組んだ。本研究と関連して、擬一次元イジング型反強磁性体BaCo2V2O8の磁場中磁気励起について、数値計算とESR実験の比較を行い、論文発表した。
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Phys. Rev. B
巻: 105 ページ: 014417
10.1103/PhysRevB.105.014417
J. Phys.: Conf. Ser.
巻: 2207 ページ: 012045
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http://www11.plala.or.jp/sces/onishi/index.html