本研究では、次世代の太陽電池・発光デバイス材料として注目されているハロゲン化金属ペロブスカイト半導体を対象として、その基礎的な光物性の研究を行ってきた。特に、重い鉛を含有することからこの物質系は大きなスピン-軌道相互作用をもち、併せて反転対称性の破れによってラシュバ効果とそれによるユニークな物理現象が発現することが報告・議論されている。我々のこれまでの研究で、ハロゲン化金属ペロブスカイトCsPbBr3バルク結晶においては結晶の反転対称性の破れやそれに付随する強誘電性の発現は確認されず、そのため期待されていたバルクラシュバ効果は、ない、もしくはあってもその影響は非常に小さいと予測された。そのため、今年度は強弾性ドメイン境界に着目し、その界面における物性の研究を行ってきた。様々な種類のドメイン境界が形成されるが、空間分解偏光分光の光学システムを用いて、結晶軸の方向が90度異なる双晶境界が形成されていることを確認した。この境界の近傍では、おそらく歪みの影響と思われる励起子共鳴エネルギーの僅かな変化が見られた。また、走査型プローブ顕微鏡の微小電流測定モードを利用して電気伝導性を調べたところ、この界面において二次元的な伝導領域の形成を示唆する結果が得られた。このような二次元伝導領域の形成は、絶縁性の高い酸化物材料の強誘電ドメイン境界において報告されているが、ハロゲン化金属ペロブスカイトでは初めて観測されたものであり、本研究の大きな成果と言える。また、光第2高調波発生(SHG)による反転対称性の破れについても研究を行ったが、バルク・境界ともに反転対称性の破れは観測されなかった。界面における電気伝導の起源については、今後さらなる研究が必要である。
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