研究実績の概要 |
近年、量子コンピュータや古典限界を超える感度を持つ量子計測などへの応用をめざし、複数の光子をもつれ合わせた多光子もつれ光子源の実現が期待されている。この光子源を実現する方法のひとつが、固体発光体による超放射である。しかし、超放射は実現が最も困難な研究課題のひとつであった。本研究では、固体発光体での超放射を実現するため、ナノダイヤモンド中の窒素欠陥(NV)中心を結合させたナノ光ファイバブラッグ共振器(NFBC)に着目、研究を行ってきた。 令和元年度は、ナノダイヤモンドを結合させるためのNFBCの開発を行った。従来、NFBCは、イオン源としてガリウム(Ga)を用いた集束イオンビーム(FIB)装置を用いて開発を行ってきた。しかし、Gaイオンによるサンプルの汚染や加工分解能のため、NFBCの光閉じ込め効率(Q)値を向上させることが困難だった。この解決を目指し、イオン源としてヘリウムイオンを用いたヘリウムイオン顕微鏡を用いたNFBCの開発に取り組み、従来よりも16倍以上Q値を向上させたNFBCの開発に成功した。しかし、加工した周期構造が不明瞭に観察される、歩留まりの悪化などの課題が生じた。 これらの問題の解決を目指し、令和二年度は、イオン源にネオンを用いてNFBCの開発に取り組んだ。その結果、明瞭な周期構造を持つNFBCを開発することに成功した。また、得られた共鳴スペクトルは、時間領域差分(FDTD)法を用いたシミュレーションともよく一致することがわかった。 令和3年度は、極低温装置を立ち上げ、7 Kの温度で、ナノダイヤモンド中のNV中心を光励起し、超放射の可能性を探索した。先行研究(Nature Communications, 8, 1205, 2017)同様、発光寿命が短く明るいNVセンターを発見することはできたが、超放射で観測されるバンチング現象を観測するまでには至らなかった。
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