研究課題/領域番号 |
19K03688
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
余越 伸彦 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90409681)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 光渦 / 半導体量子井戸 / カイラル磁性体 |
研究実績の概要 |
軌道角運動量もつ光(光渦)はその特徴的な空間構造をもち、物質に照射すると通常とは異なる光学遷移を起こす。このことは、光の軌道角運動量が物質内の伝導電子に新しい自由度をもたらす可能性を示唆する。光の軌道角運動量の情報を受けた光電子により物質中の磁気を生成・変調することが可能となれば、科学的興味のみならず、磁気デバイスの新しい情報処理技術の開発へと波及する可能性も持つ。 これまでの研究により、光渦ビームを照射された半導体GaAs量子井戸においては、伝導電子の分散関係について局所密度近似の下で導出し、光渦由来のスピンー軌道相互作用が運動量空間におけるベリーの位相の性質を大きく変調することを明らかにした。また局所密度近似を超えて光渦の空間構造の影響が渦中心から離れたところでのスピン構造が変調することもわかった。またMoS2などの単層遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)に光渦ビームを照射した場合についても、同様に光学遷移選択則の変化に伴う光渦誘起のスピン-軌道相互作用が、電子スピン伝導に大きな影響を与えうることを解析的に示すことができた。また層状TMDのサイズがスピン分布に与える影響を計算し、光渦のビームウエストに比べTMDが小さくなると光渦誘起のスピンー軌道相互作用の影響が弱くなることがわかった。 一方で、カイラル磁性体に同様に共鳴光渦ビームを照射することにより起こる磁気秩序の変調については、その変調の度合いについて光渦の強度や局在スピンのギルバートダンピングの大きさに対する依存性を明らかにした。またスピン波の分散関係を導出し、光渦誘起相互作用により低エネルギー領域に例外点と呼ばれる構造が現れることを示した。光渦パルスビーム照射を想定し、磁気構造やスピン波のダイナミクスにと非局所性の数値計算を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、カイラル磁性体の光渦照射による光渦ビーム照射による磁気構造の変調について、多くのパラメーター依存性を明らかにすることができた。また光渦誘起スピン間相互作用により、集団励起(スピン波)の分散関係が定性的に変化することが確認されたので論文を投稿予定である。また半導体量子井戸における伝導電子の分散関係について、局所密度近似を超えて光渦の空間構造がΓ-点近傍におけるベリー接続に与える影響について解析した。
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今後の研究の推進方策 |
購入・設置した計算機サーバーを活用することで、引き続き解析計算では難しかった領域について明らかにする。半導体量子井戸における伝導電子については、局所密度近似を超えた計算により、渦中心からより離れた領域におけるスピン構造とスピン電流の計算を行う。また導出した光渦照射カイラル磁性体における分散関係から、スピン波のダイナミクスと非局所性について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス蔓延の影響により予定していた出張がなくなったことにより、旅費の支出がなくなった。そのため予定を変更し、計算機サーバー(クラスタエレメント)の購入費用にあてて、より大きなサイズの系の計算ができるようにした。また投稿していた論文の掲載決定が遅れ、予定していた論文掲載費が支出できなかった。この論文はすでに掲載されており、掲載費は次年度早期に執行する。今年度は、ウィルスの収束度合いにもよるが、前年度で得られた成果についても発表活動を精力的に行う。また執筆論文の英文校正費や掲載費にも当てる予定である。
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