軌道角運動量をもつ光(光渦)はその特徴的な空間構造をもち、物質に照射すると通常とは異なる光学遷移を起こす。このことは、光の軌道角運動量が物質内の伝導電子に新しい自由度をもたらす可能性を示唆する。光の軌道角運動量の情報を受けた光電子により物質中の磁気を生成・変調することが可能となれば、科学的興味のみならず、磁気デバイスの新しい情報処理技術の開発へと波及する可能性も持つ。 最終年度は、MoS2などの単層遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)に光渦ビームを照射した場合について四重極子遷移の影響について解析を行なった。これまでの研究により、TMDにおいても光渦励起特有の遷移選択則があることを明らかにしてきた。しかし、TMDでは各バレーとスピンが強く結合しており、光渦励起によりスピンを混成させるような効果は得られていなかった。四重極子遷移励起を取り入れることにより、2つのバレーを同時に励起することでスピン混成の起こる可能性について明らかにした。 研究期間全体において光渦照射により、カイラル磁性体の磁気秩序の変調を起こし、そのスピン波の分散関係の低エネルギー領域に例外点と呼ばれる構造が現れることを示した。これは光渦の軌道角運動量が電子の磁化構造とその安定性に影響を与えることが可能であることを示している。また変化の度合いについて、レーザーの強度・偏光・軌道角運動量や電子のギルバートダンピングなど様々なパラメーターに対する依存性を明らかにすることができた。これらの情報は、今後の実証可能性を論じるときに非常に有用であると考える。また半導体量子井戸やTMDにおける遍歴電子系についても、光渦誘起のスピンー軌道相互作用が、電子スピン伝導に大きな影響を与えうることを解析的に示すことができた。
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