前年度、化学ポテンシャルの値が異なる2つの熱浴に接した2成分非平衡フェルミ原子気体に対する平均場理論を用いた研究から、2つの熱浴で生じた原子の運動量分布の2段構造に因り、Fulde-Ferrell(FF)状態に類似の秩序パラメータを有する超流動状態が安定化し得ることを見出した。その一方で、対形成揺らぎまで取り入れてこの系の超流動転移温度を評価した初年度の研究では、FF型の対形成揺らぎが顕著に増大する領域は確かに存在するものの、FF型超流動への相転移は得られなかった。このような平均場理論と強結合理論の不一致の問題は、熱平衡系におけるFF状態でも知られており、そこでは、系の回転対称性による対形成揺らぎの異常な増大が原因であると指摘されている。そこで、本研究における上述の不一致の問題を解決する出発点として、スピンインバランスを有する2成分熱平衡フェルミ原子気体をNSR理論と呼ばれる強結合理論を用い研究、光格子の導入により、系の回転対称性を取り除くことで、FF状態が如何にして対形成揺らぎに打ち勝ち安定化していくかを調べた。その結果、原子のフィリングが増大し、フェルミ面の形状が球形からずれるにつれ、強い対形成揺らぎで抑制されていたFF状態が復活することを見出した。今回の研究では、スピンインバランス系を考えているため、FF状態と相分離の競合というこの系特有の現象もあるものの、このタイプの超流動の生成機構と対形成揺らぎによる抑制機構は、本研究が対象としている2成分非平衡フェルミ原子気体で実現するものと本質的に同じであることから、後者でも実験を光格子中で行うことにより、前年度見出したFF型非平衡超流動が実現可能であると考えられる。 今年度は本研究課題の最終年度であることから、今後の更なる発展への準備として、2バンド系超流動やBose-Fermi混合系に対する強結合理論の構築も行った。
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