研究課題/領域番号 |
19K03690
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
欅田 英之 上智大学, 理工学部, 准教授 (50296886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 二酸化チタン / ポンプ・プローブ分光 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、光触媒材料として広く普及している二酸化チタンの光励起キャリアの挙動を明らかにすることにある。特に、異なる構造に対するキャリアダイナミクスの違いに焦点を当て、光触媒活性にどのような影響を与えるかを解明する。 従来の「化学的」研究では考慮されてこなかった、「光物性」的な見方、すなわちアナターゼ構造のみ励起子の自己束縛化が起きるといった、光励起キャリアのふるまいの違いに着目する。ポンプ・プローブ測定で得られる結果に対して化学的手法を用いてトラップ正孔とそれ以外の信号を分離し、光物性の観点から、低温下での測定や時間分解発光を行う。さらに、光物性の重要な課題である励起子の自己束縛過程を明らかにする。 我々はこれまでフェムト秒パルスによる紫外ポンプ・白色プローブ測定系を用いて、アナターゼ及びルチル二酸化チタンの光励起キャリアのふるまいを観測してきた。しかしながら、より長時間領域での報告と異なる結果が得られており、同一試料で幅広い時間領域の測定が必要となっていた。 2019年度はこれまでより長いマイクロ秒時間領域におけるポンプ・プローブ測定系の構築を行ったが、測定できる波長範囲が可視領域に限られていた。そのため、検出できるキャリアはアナターゼ薄膜におけるトラップ正孔のみであった。 そこで、2020年度はマイクロ秒時間領域における測定可能な波長範囲を近赤外まで広げるために、別の光源を用いてポンプ・プローブ信号の評価を行った。しかし光源の強度揺らぎや遅延時間の揺らぎが大きく、この手法における信号測定には至らなかった。 2021年度は前年度の結果を踏まえ、白色光源の強度揺らぎや遅延時間揺らぎの影響を受けない測定手法の開発を行った。まだいくつかの課題はあるが、長寿命キャリアの測定に向けた環境がようやく整いつつある状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の結果を踏まえ、2020年度により幅広い波長における長寿命キャリアの測定を行うために、過去に用いた光源とは異なる装置を使い始めた。当初は単に装置の置き換えだけで済むと考えていたが、予想とは異なり、測定がうまくできない結果に終わった。その原因について調べたところ、強度揺らぎや遅延時間の揺らぎが大きく影響していることが分かったが、研究の過程で、我々が行っている手法は他に例のないものであることも判明した。 そこで2021年度はこの新規の光源を使った測定方法に焦点を当てて、その欠点を打ち消す手法の開拓を行った。ようやく測定のめどが立った状況であり、当初の研究計画に戻りつつ、かつ従来にない手法での測定を始める環境が整いつつあるところである。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要」や「現在までの進捗状況」で述べたように、2020年度から2021年度にかけて、二酸化チタンのキャリアダイナミクスを解明するという当初の目的から少し外れ、新たな測定手法の開発を行ってきた。 ここまでに得られた成果を使い、今後は再び二酸化チタンの光励起キャリアの結晶内部でのダイナミクスの解明に戻る。特に、アナターゼ及びルチル二酸化チタンにおける 光励起キャリアの拡散過程に着目し、正孔の拡散の様子とその結晶構造による違いを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画にあるように、この助成金によってさまざまな膜厚・結晶構造の試料の作製を行う。ただし、「現在までの進捗状況」で述べたように、過去二年にわたって測定手法の開発に集中して研究を進めており、その過程で性質が分かっているものをテスト飼料として用いたため、新たな試料の作製はほとんど行ってこなかった。 次年度は再び当初の計画に沿った研究に戻ることから、この次年度使用額を試料の作製に充てる。
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