研究課題/領域番号 |
19K03699
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 淳 京都大学, 理学研究科, 特定准教授 (50579753)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光共振器 / 光コム / 精密分子分光 |
研究実績の概要 |
近年のレーザー冷却技術の発展による、原子・分子の精密分光実験の拡がりにより、レーザーの周波数の安定度に対する需要が高まっている。最先端の光格子時計等による光原子時計の実験では、15-18桁の原子分光実験が実現され、そこでは光コムを使った光周波数安定化や光周波数比較の技術が必須となっている。他方で、従来の光コムはモードロックレーザー発振を安定に維持する必要があり、技術的な困難を伴うとともに、非常に高価であるため、光原子時計を持たない多くの研究室では、市販の波長計(精度は7桁程度)を用いるしかなく、大きな技術的な跳びが存在している。 本研究の目的は、高安定かつ高フィネスな光共振器の共鳴周波数間隔の精密な測定技術を開発することにより、従来のモードロックレーザー型の光コムに変わる、安価・安定・容易な『光共振器型の光コム』を開発することである。これによって、GPS信号で容易に得られる12桁のマイクロ波周波数の安定度を光周波数の安定度へと移すことが可能になる。本研究ではさらに、この技術を分子の精密分光実験へと応用して、分子の振動凖位の精密分光による電子・陽子質量比の恒常性検証実験や、近距離重力の逆2乗則の検証実験などの基礎物理学的実験へとつなげることを目指している。 本年度は、精密分子分光実験のための極低温分子生成技術の開発を行うとともに、京都大学量子光学研究室との共同研究によって、光共振器へのレーザー周波数の安定化技術の開発を行った。その結果、レーザーの短期線幅として5Hz以下という安定度を実現することができた。この成果は今後の光共振器の共鳴周波数間隔の高精度評価実験に向けた大きな一歩となる成果である。また、関連する研究成果をReview of scientific instruments誌へ投稿し掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光共振器の共鳴周波数は1GHz程度のマイクロ波周波数の間隔で、ほぼ等間隔に並んでいる。この性質を使うことで、光周波数をマイクロ波周波数に分割することが可能である。本研究の目的はこの共鳴周波数間隔の高精度な測定を実現することで、マイクロ波周波数と光周波数をリンクさせ、マイクロ波周波数基準の周波数精度である12桁の精度で光周波数を安定化することである。 本年度は、精密分子分光実験のための極低温分子生成技術の開発を行うとともに、京都大学理学研究科の高橋義朗教授との共同研究によって、光共振器へのレーザー周波数の安定化技術の開発を行った。高安定かつ高フィネスな光共振器として、真空チャンバー内に置かれたULEガラス製の光共振器を用いるが、それを2台準備してレーザー周波数の高安定化を行った。1台だけを用いて、2本の独立なレーザーを隣り合う共鳴周波数に安定化することでも、レーザー周波数の光共振器に対する安定度を評価することは可能である。しかしその場合、光共振器の共鳴周波数がどれほど揺らいでいるかの情報は全く得られない。本研究で行った2台の独立な光共振器を用いることで、2つの光共振器の共鳴周波数の相対的な安定度が分かるため、光共振器自体の安定化も同時に行うことが可能となる。 実験の結果、2つの独立な光共振器に安定化された独立な2つのレーザーの差周波数の短期線幅として5Hz以下の線幅を実現することに成功した。これはレーザー周波数をおよそ14桁の精度で安定化したことに相当している。この技術は今後の光共振器の共鳴周波数間隔の高精度評価実験に向けた大きな一歩となる技術である。また、関連する研究成果をNew Journal of Physics誌へ投稿し掲載された。 このような成果から、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに開発してきた技術をさらに発展させて、共振周波数間隔の精密な測定へと発展させる。光共振器の共鳴周波数へレーザー周波数を安定化することで、光共振器へ入射させたレーザー光は、光共振器を透過するようになる。この透過してきた光に対して、マイクロ波周波数程度の変調を加えて2つの周波数のサイドバンドを励起し、再度光共振器へと入射される。この2つのサイドバンドを元の共鳴周波数より高い共鳴周波数と低い共鳴周波数のそれぞれに共鳴させ、その周波数差として、共鳴周波数間隔を評価する。このことによって、元のレーザー光を共振器の共鳴への安定化した際に、RAMなどの影響によってシフトが生じてしまったときでも、その影響を取り除いて、より高精度に共鳴周波数間隔を測定することが可能となる。 提案書に記入した当初の計画では、この2つのサイドバンドを励起するために、Fiber型EOMに2つのマイクロ波周波数を導入することを計画していた。しかしそのためには、マイクロ波源が2つ必要になることと、さらに多数のサイドバンドが励起されるために、サイドバンドの1本あたりの強度が下がってしまうという2つの問題点があった。そのため、新たに計画している方法では、AOMに2つのRF周波数を入れることによって、2つのサイドバンドを実現することを考えている。これによって、より安価で効率よく共鳴周波数間隔の高精度な測定が実現できると考えられる。 ただし、今現在の状況では、コロナウイルスの影響で、実験は完全に停止している。また、実験準備のための装置の発注もできない状況にある。そのため、上記のような実験的な研究だけでなく、理論的な考察による研究も進めていく必要がある。
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