近年のレーザー冷却技術の発展にともない、レーザー周波数の安定度に対する需要が高まっている。最先端の光原子時計の実験では、15-18桁の原子分光実験が実現され、そこでは光コムを使った技術が必須となっている。ところが、従来の光コムは運用時に技術的な困難を伴うとともに、非常に高価であるため、多くの研究室では、市販の波長計(精度は7桁程度)を用いている。本研究の目的は、高安定かつ高フィネスな光共振器の共鳴周波数間隔(FSR)の精密な測定技術を開発し、安価・安定・容易な『光共振器型の光コム』を実現し、さらにそれを原子・分子の精密分光実験へと応用することである。 令和元年度は、京都大学量子光学研究室との共同研究により、高安定な光共振器へのレーザー周波数の安定化技術を開発し、Yb原子の狭線幅遷移を高安定に励起できる光源の開発に成功し、投稿論文で報告した。令和2年度は、私自身の異動に伴い、北海道大学での実験装置の開発を進めた。令和3年度では、移設後の装置において、高フィネス光共振器により光増幅された、3次元光格子中でのレーザー冷却実験を行い、理論的な冷却限界である反跳限界温度へ冷却を実現した。この研究を通して以下の4つの実験技術を開発した。1.狭線幅光共振器に対する、レーザー周波数の自動的な安定化システムの実現。2.レーザー周波数の安定化維持したまま、共振器内の光強度を5桁のダイナミックレンジで、かつ数10usという高速な時定数での強度変調可能なシステムの開発。3.光共振器に安定化されたレーザー光の透過光の周波数測定による、共振器自体の短期振動の評価。4.FiberEOMによるサイドバンド励起を使った共振器のFSRの長期変化の評価。 これらの実験技術は、今後の極低温分子生成や精密分光実験に必須となる技術であり、研究期間内に大きな進展が得られた。
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