研究課題/領域番号 |
19K03700
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田嶌 俊之 京都大学, 工学研究科, 特定研究員 (40437356)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 固体中の欠陥中心 / 量子中継器 |
研究実績の概要 |
光量子情報通信では、情報の損失が少ないことから1.5μm帯域が情報の伝送で使用される。一方で、情報伝送間を中継する装置では可視光波長域を発光するイオンや原子が使用される。そのため、通常は、通信上に情報を送るためには可視光と1.5μm帯域で光波長変換が必要となる。本研究では、これらの波長変換をすることなしに1.5μm帯域で動作が期待される固体中の単一Er欠陥中心が持つ機構の解明やこれらを量子中継器として活用できないかという課題に対して研究を行っている。まず、固体中のEr欠陥中心を作製するためにはどのような条件が最適化を見つける必要がありシミュレーション等を利用して検証した。それらに基づいて、固体中にEr欠陥中心の作製を行うための様々なイオン注入を行った。現在、実験によるEr欠陥中心の作製の最適化を行っている。また、作製した発光に関しての光特性評価のためのシステムの構築を行っている。また、光量子情報通信では、光学的操作や欠陥が持つ量子スピンの操作やこれらの測定も要求されることからこれらの要素技術の向上も行った。また、可能な限り光量子情報通信では光ファイバのみで様々な操作を行うことで将来的にはシステム全体のコンパクト化も図れることからこれらの技術開発についても取り組んでいる。最近注目されている2次元薄膜中の欠陥中心を持つナノフレークとナノファイバ共振器との結合実験やダイヤモンド中の窒素複合欠陥中心などを用いてナノファイバ共振器を用いたファイバのみによる光励起に関する理論的検証や原理検証実験等を行っている。これらに関して、国際会議や国内学会などの口頭、ポスター発表や理論論文の出版も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最近、ダイヤモンド中にイオン注入されたアンサンブルのEr欠陥中心から、常温において、光通信波長として利用される1.5μm帯の発光が確認された。しかしながら、Er欠陥中心の発光強度の弱さが原因で単一Er欠陥中心における発光が確認されておらず、発光特性に関して未解明な部分が多い。イオン注入の条件をシミュレーション等により再検証した。また、他の欠陥中心では、イオン注入条件や欠陥中心の作製工程が見直されており、最近技術的向上が行われた文献等がいくつか発表されており、これらを本研究に取り入れることで発光強度が上がらないかを検証した。これらの検証に基づいていくつかのダイヤモンドサンプルに対して様々なイオン注入量によりErのイオン注入を行った。そして、Er欠陥中心からの発光を観測するためのシステムの構築や評価のための測定系の構築を行っている。また、光量子情報通信上で重要となる発光体操作に関しての技術的向上を行った。固体レンズとは違うが最近着目されている発光体の検出効率を上げる方法の一つであるナノファイバ光共振器なども視野にいれErの発光体の検出効率の向上に向けて、まず、2次元薄膜から作製されたナノフレーク中の欠陥中心とこのナノファイバ光共振器の結合を行った。この結合は、最近、HeによるFIB装置を用いることで自在に共振波長を操れるようになったナノファイバ光共振器と発光体が持つ様々な光波長を結合した最初の実験である。国内会議による発表も行った。また、光情報通信上では、欠陥中心を励起する光をファイバ内に入射するとファイバ内のバックグランドでナノ粒子からの発光検出において問題があった。それらに対してこのナノファイバ共振器を用いることでこれらの問題を解決できないかという課題に対してシミュレーションや原理実証などから可能性を見出した。また、国際、国内会議での発表を行いこの理論論文を出版した。
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今後の研究の推進方策 |
様々な条件下によるErのイオン注入を行っているが、これらを用いてEr欠陥中心を作製することで集団や単一のEr発光中心の作製を行う。これらの実験結果も踏まえて、ダイヤモンドに対してイオン注入量や加速度条件を変えたErのイオン注入条件の再検討を行い、実際にイオン注入を行う。また、作製したEr欠陥中心の集団や単一Er欠陥中心からの発光に対する光学特性評価を行うためのシステムの構築を継続して行う。また、そのシステムを用いた光学特性評価を行い、集団や単一のEr欠陥中心の観測からこの欠陥中心の光学特性に対する機構解明に取り組む。また、Er欠陥中心の量子スピンの観測に向けて、必要なマイクロ波操作などを含むシステムについても検討や構築を行っていく。また、マイクロ波をより強く照射するための方法についてのリソグラフィ技術の更なる向上も目指す。固体レンズの作製に関しても最近いくつかの論文で様々な作製が行われていることからこれらに関しても再検討を行う。2次元薄膜から作製されたナノフレーク中の欠陥中心とこのナノファイバ光共振器の結合実験から得られた結果からの解析等を更に進める。また、光通信上で問題となる光ファイバ中のバックグランドに対しても、現在行っている直接的に発光体に対して光励起する技術の検証や実験結果の解析等を更に進める。そして、量子スピンなどをファイバを通して効率的に検出する方法などの開発も行っていく。これらの新しい知見も含めてEr欠陥中心からの弱い発光をどのように効率的に検出するかを検討し実際にこれらの技術を活用してこのEr欠陥中心からの発光に対する効率的な検出方法の確立を目指す。そして、得られた結果を学会で発表する、また、論文誌への投稿を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響により予定していたイオン注入の一部ができなかったり、また、学会発表が紙面発表になるなどしたことが影響している。令和元年に行ったイオン注入結果を考慮して再度条件を変えることでのイオン注入や光学特性評価系システムやマイクロ波システムに必要な部品の購入を計画している。発光検出の高効率化に向けた加工やマイクロ波強度をあげるための設計などへの利用も検討している。また、発表等のための参加費や旅費等への使用も計画している。また、論文投稿などへの使用も検討している。
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