研究課題/領域番号 |
19K03701
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
南 康夫 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任准教授 (60578368)
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研究分担者 |
末元 徹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 客員研究員 (50134052)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 超高速現象 / 光物性物理学 / イオン伝導体 / 高強度テラヘルツ |
研究実績の概要 |
超イオン伝導体中では可動イオンがポテンシャル障壁によりトラップされており、電圧の印加によって可動イオンはポテンシャル障壁を乗り越えてホッピングしながら移動することが知られている。本研究では、室温で超イオン伝導体にピコ秒のテラヘルツ波パルスを照射して可動イオンを移動させ、直流電流を誘起する。そして、誘起された電流を直接的に電流計で計測し、可動イオンのピコ秒のダイナミクスを明らかにすることを目的とする。特に、室温でマクロな電流を誘起し、それを計測することができれば、イオンの運動を利用した超高速スイッチング素子の基礎を構築できる。 2020年度は、テラヘルツ波の照射による可動イオンの移動について、シミュレーションと半定量的な解析を行い、実験結果の再現を試みた。シミュレーションにより、テラヘルツ波の照射によって可動イオンが移動する様子を定性的に再現できた。そして、テラヘルツ波の照射によって、可動イオンが最初にあったサイトから他のサイトへ移動し、その後、移動先のサイトで振動していることや、サイトの移動に要する時間はピコ秒のオーダーということがわかった。しかし、テラヘルツ波の強度と電流値の絶対値が実験値と異なるものとなったため、シミュレーションに加えて半定量的な解析も行った。半定量的な解析に用いたモデルでは、熱運動によって可動イオンが移動するが、テラヘルツ波の電場によってポテンシャルが変形して可動イオンの移動に偏りができるものとした。半定量的な解析によってテラヘルツ波を照射したときの可動イオンの運動を再現したところ、可動イオンの電荷が実効的に増大していること、可動イオンが集団的に運動していること、可動イオンをトラップしているポテンシャルが実効的に長くなっていることなどを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の進捗状況を踏まえてた上で、当初計画に従い、今年度は超イオン伝導体中の可動イオンの運動に関して、シミュレーションによる解析と半定量的な解析を行った。 シミュレーションでは可動イオンの個々の運動を計算して発生した電流を実験結果と比較するという方法をとった。可動イオン1つが周期ポテンシャル内に置かれ、テラヘルツ波の照射によってクーロン力が働いて運動するという簡単な系で計算を行い、定性的に実験結果を再現した。このシミュレーションによって可動イオンの個々の運動を理解できた。より正確な解析を行うためには、可動イオン間の相互作用などを考慮した計算が必要となる。 半定量的な解析では、熱運動によって運動する可動イオンが、テラヘルツ波の電場の印加によって変形したポテンシャルの影響を受けて移動に偏りができるというモデルを構築して計算を行い、定性的に実験結果を再現できた。 上述の内容の一部を学術論文1報、解説紹介記事1報として公表するに至った点は評価できる。よって、研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までの進捗状況を踏まえ、最終年度では、シミュレーション解析、半定量的な解析をこれまで用いたナトリウム・ベータ・アルミナ以外の超イオン伝導体にも適用する。また、照射するテラヘルツ波の波形や温度といった条件を変化させて、超イオン伝導体内の可動イオンの運動を体系的に理解する。可動イオンをトラップしているポテンシャル障壁が低い場合、可動イオンの質量が小さい場合や、試料の温度が高い場合などには可動イオンが移動しやすくなることが容易に予想できる。しかし、可動イオンの移動距離や移動に要する時間がどのように変化するかについて予想するのは容易ではない。したがって、ポテンシャル障壁の高さ、可動イオンの質量、試料温度を変えてテラヘルツ波照射で誘起される可動イオンの運動を解析し、誘起される電流の大きさやオン・オフの切り替えに要する時間への影響を明らかにする。そして、超高速イオンマニピュレーションの基礎を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的なコロナ禍により国内外の会議がウェブ会議となり、旅費の計上が当初予定していたよりも抑えることができたため。次年度では、ウェブ会議を行う環境を整備するのに充てる予定である。
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