研究課題/領域番号 |
19K03703
|
研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
平野 琢也 学習院大学, 理学部, 教授 (00251330)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | スクイージング / エンタングルメント / 光導波路 / 空間位相変調器 / 機械学習 / ホモダイン検出 / スクイーズド状態 / 空間コヒーレンス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、パルス光を用いた光導波路中のパラメトリック増幅により、エンタングルメント生成の質の向上を実現することである。エンタングルメントの生成と制御は、現代の科学の最も重要な課題の一つであり、強い相関を有するエンタングルメントの生成と制御は、量子情報処理や量子計測を社会で現実に使われる技術とするためにも必要不可欠である。特に、パルス光の高い瞬間強度を利用し、周期分極反転光導波路中のシングルパスの光パラメトリック増幅によりスクイージングとエンタングルメントを生成する手法は、最も有望な方法である。しかしながら、従来は、空間モードの制御が不十分なために、質の高いエンタングルメ ントを実現することができていなかった。本研究では、2020年度に光学系の見直しを行うことにより、2つのビーム間のビジビリティを改善し、空間位相変調器を用いた更なる改善の基盤を築くことができた。2021年度は空間位相変調器を導入し、ビジビリティの改善とスクイージングの改善を試みた。その結果、昨年度を上回る97%のビジビリティを実現し、さらに、パルス光を用いたスクイージングではこれまでの最高である5.1dBのスクイージングを達成することができた。本成果は、空間位相変調器を用いて、従来よりも優れたスクイージングを実現できることを実証したもので、光を用いた量子情報処理の実用化の重要なステップといえる。今後、空間位相変調器の位相分布を最適化することにより、更なるスクイージングの改善を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は光学系に空間位相変調器を組み込み、ビジビリティの向上とスクイージングの改善を行った。研究の実施は、研究代表者が研究を総括し、研究協力者として、修士課程1年生の学生1名が、光学系の調整やデータの解析を担当した。実験には、波長1063nm、繰り返し周波数86.5MHz、パルス時間幅のモード同期VANレーザーを用いた。パラメトリック増幅の励起光に用いる第2高調波は、バルク型のPPKTP結晶で発生した。パラメトリック増幅は、長さ4.8mmの周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)光導波路を用いた。ビジビリティの測定は、PPLN光導波路に波長1063nmの基本波を入射し、その出射光をプローブ光として用いて、LO光とのビジビリティを測定した。空間位相変調器は、有効エリア15.9mmx12.8mm、画素は1272x1024ピクセルの反射型の装置を用いた。空間位相変調器の位相分布はビットマップを入力して制御し、本年度は楕円上の分布を持つ画像を用いた。スクイージングはスペクトラムアナライザを用いた周波数領域の測定を実施した。中心周波数5MHzで測定した結果は、5.1dBのスクイージングが得られた。この値は、ホモダイン検出器自身のもつ雑音を補正しない値である。本研究で達成された5.1dBのスクイージングは我々の知る限りパルス光として最高の値である。スクイージングとアンチスクイージングの測定値からビームスプリッティングモデルを用いて見積もったモードマッチ効率は0.7となり、空間位相変調器を導入前の0.65に比べて、改善することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は空間位相変調器を本格的に導入し、空間位相分布を機械学習の手法も導入して最適化を図り、ビジビリティとスクイージングの更なる改善を目指す。研究の実施は、研究代表者が全体の研究を総括し、研究協力者として、修士課程2年生の学生1名の体制で行う。パラメトリック増幅によりスクイーズド状態を発生するための周期分局反転ニオブ酸リチウム光導波路をPPLN1とPPLN2とし、LO光の時間波形整形を行う光導波路をPPLNLOとする。相関の強いエンタングルメントを実現するためには、これら3つの全ての組み合わせで高いビジビリティを実現する必要がある。3つの組み合わせ全ての空間モードを改善するためには、最低で2つの空間位相変調器が必要であり、できれば3つ用いることが望ましい。しかしながら、入手済みの1064nm用の空間位相変調器の数は1個であるので、2021年度に引き続き、空間位相変調器を用いたスクイージングの改善を試みる。空間位相変調器としては、浜松ホトニクス社の製品を用いる。本製品はPCからビットマップ画像を出力し、各画素の位相変調量を制御するソフトウェアが提供されているが、空間位相分布を最適化するためには、迅速に様々な空間分布を試す必要がある。そこで本年度はまず、プログラムを自作し、画像の生成と空間位相変調の制御を高速に実施できるようにする。更に、ビジビリティの測定もPCにより自動化し、これらを位相分布の制御とビジビリティの測定をPCで行えるようにすることにより、最適化を自動化する。さらに、機械学習の手法を取り入れた最適化を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、基本的には昨年度と同様であり、主に以下の2つである。一つ目は、2020年度のコロナ禍、2019年度のレーザー装置の故障により、実験の進行が当初の予定よりも遅れ気味であることである。二つ目の理由は、研究の進行により、最適な支出をするためである。本研究では、空間位相変調器を用いてエンタングルメントの質を向上することを目的としている。そのためには、空間位相変調器の個数は最低でも2台、できれば、3台用いることが望ましい。しかしながら、高性能の空間位相変調器の価格は1台2百万円と高価であり、支出計画を研究の進展に応じて最適化する必要がある。2022年度の使用については、繰越予算を用いて、空間位相変調器を新たに1台購入することを検討する。
|