研究課題/領域番号 |
19K03704
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
東條 賢 中央大学, 理工学部, 准教授 (30433709)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 冷却原子輸送 / 光学禁制遷移 / 光近接場 |
研究実績の概要 |
制御性の高いレーザー冷却原子を”原子波プローブ”として用いて、誘電体表面近傍に誘起されるナノ領域における光磁気的な相互作用探索を目指している。初年度では、安定的な薄膜原子波プローブ測定の技術確立を目指す。固体表面に局在的に生じる光近接場では通常の非局在の伝搬光と全く異なり、光と原子の高次相互作用である磁気多重極子の観測が期待できる。 実験では,真空槽内に光保持のための光トラップ技術を利用し、ガラス表面近くへの冷却Rb原子の輸送を実現した。光トラップのトラップ形状に依存するトラップ周波数をパラメトリック共鳴実験により測定し、光定在波領域では閉じ込め領域が急峻になる傾向を確認し、輸送光トラップ自身による光定在波の生成および安定的捕獲を実現した。光定在波から解放された原子波を用いて打ち上げ型実験を行った。冷却原子波とガラス表面の効果によってわずかなエネルギーシフトを観測した。これはガラス表面のファンデルワールス力による冷却原子波のエネルギーシフトと考えられ、冷却原子の打ち上げ型実験ではじめて観測に成功した また磁気光学トラップ冷却原子を用いて、磁気双極子・電気四重極子遷移である5P-6P遷移(911nm)の励起スペクトルの測定に成功した。結果により、電気四重極子遷移と磁気双極子遷移の両方の遷移を実現した。現在、光トラップへの移行準備を進めている。 特異な空間モードを有するラゲールガウス光(LG光)の生成について、新たに空間位相変調器を用いた高効率LG光の生成に成功した。これまで用いてきたマイクロミラーアレイによるLG光生成効率の数倍となる50%以上の高効率生成を確認した。LG光を用いた1μm以下の局所領域の閉じ込め実験を行っており、今後の本研究推進も期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では従来の光電場によるナノ計測イメージングではなく、光磁場の新しいナノ光計測と光操作を目指している。[1]冷却原子によって波の性質を有する薄膜状の原子波に、[2]光磁場を透磁率変化により転写し、[3]光磁場による新しい量子操作へと発展する。まず初年度では[1]の薄膜状原子波の安定的供給の実現と光電磁場の転写の技術確立を試みた。 本研究で用いる真空槽内に光トラップ技術を応用し、初期冷却原子の保持・原子のさらなる冷却による原子波の生成・冷却原子波の輸送を実施する。初年度ではさらに冷却原子波を光定在波領域へ安定的導入のためにトラップを改良した。定在波を周期的に振動させることにより生じるパラメトリック共鳴実験を行い、急峻なトラップによる共鳴周波数の高周波化が確認できた。さらに薄膜状原子波とガラス表面の相互作用観測を試み、ガラス表面のファンデルワールス力による冷却原子波のエネルギーシフトを、原子波打ち上げ型実験ではじめて観測に成功した。当初予定の[1]の確立および[2]の準備段階である、ファンデルワールス力の原子波への転写を確認できている。場を転写した原子波の高分解能測定については今後推進する。 [2]で必須となる磁気双極子遷移 5P-6P遷移実験も冷却原子を用いた初めての蛍光スペクトル観測に成功しており光磁気の転写実験の準備は順調に行われている。また[3]の量子操作のための特異な光磁場を有するラゲールガウス光(LG光)の生成実験については、当初の予定より早く空間位相変調器を入手できたこともあり、前倒しで予備実験を行っており、LG光によるスペクトル測定の準備も順調である。 以上の理由により、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前述の光磁場の新しいナノ光計測と光操作を実現するため、[1]薄膜状冷却原子波の安定的生成、[2]光磁場(または特異な光電場)の転写、[3]光磁場による新しい量子操作、の実現が必要となる。 初年度で実現半ばだった[1]の転写された薄膜原子波の高分解能測定の推進を行う。現状汎用CCDカメラを用いて10μm程度の空間分解による測定を実現しているが、今後は顕微分光用観測装置を整備して1μm以下の空間分解能を有する観測系の改良を施す。従来では強共鳴線である5S-5P遷移(780nm)を用いるが、励起光と蛍光の波長が同じため励起光ノイズの影響が大きい。今後はまず5S-5D遷移である2光子遷移および6P-5S蛍光(420nm)を用いて高分解能測定の実現を目指す。5S-5D遷移においては光トラップ中における冷却原子に対し分光測定をすでに実現している。 なお、磁気双極子遷移5P-6P励起については新たに光増幅器などのレーザー光装置が必要だが、光素子や機構部品の調達に時間がかかる恐れがあるため、本年度については上記の5S-5D遷移を用いた実験を推進する。緩和過程の6P-5S遷移は前述の5P-6P磁気双極子励起の緩和過程と同じ経路であり発展性と汎用性が高い。また磁場中の冷却原子の5D状態では、量子状態を混合するパッシェンバック効果を観測しており[3]で予定している磁場と冷却原子波の相互作用による量子操作探索にも有用である。 [2]特異な光磁場を有するラゲールガウス光(LG光)による励起スペクトル測定も行う予定である。運動量を極限まで低減した冷却原子波へのLG光の転写と、特異な光励起の素過程検証により、[2]の光磁場の転写および[3]の光磁場による量子操作への進展を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、室温原子を用いた多重極子遷移測定を行っている英国の研究者Lina Hoyos-Campo博士の招聘を予定していたが、新型コロナの影響により入国が困難となって取りやめることになったこと、また計画では自作911nm用光増幅器の周辺機器および素子(20万円程度)の購入も検討していたが2月の部品調達が困難となったことから納入時期が年度超える恐れが出たため、以上により次年度使用額(B-A)が当初より大きな額となった。 次年度では入国可能となった場合に同博士を招聘予定にしているが、航空運賃の変動等の状況を見ながら判断する予定である。また予定していた光学部品等については物品調達が可能となった場合に順次入手を検討する予定である。
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