研究課題/領域番号 |
19K03704
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
東條 賢 中央大学, 理工学部, 教授 (30433709)
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研究分担者 |
阿部 真志 中央大学, 理工学部, 共同研究員 (40803292)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 冷却原子輸送 / 光学禁制遷移 / 光近接場 |
研究実績の概要 |
制御性の高いレーザー冷却原子を”原子波プローブ”として用いて、誘電体表面近傍に誘起されるナノ領域における光磁気的な相互作用探索を目指している。[1]冷却原子によって波の性質を有する薄膜状の原子波に、[2]光磁場を透磁率変化により転写し、[3]光磁場による新しい量子操作へと発展する。初年度では薄膜原子波プローブ測定の技術確立を,2年目では原子波の輸送および光磁場検出のための光源開発と照射光の空間モード制御を準備し、3年目では特に空間モード制御によって軌道角運動量を有するラゲールガウス光(LG光)の整備を行ってきた。LG光は主に光電場がドーナツ型分布している一方で、特異な空間モードでは光電場のない中心部分に光磁場が存在する。これにより[3]光磁場による新しい量子測定および量子操作に向けた研究として確立を目指してきた。 これまで[1]に必要な原子波の表面近傍への輸送,[2]に必要な光磁場を有する5P-6P遷移である911nm光の高強度化と照射実験,[3]のLG光の整備を行ってきた。最終年度ではこれらの統合および実験技術の確立と、光磁場測定の実施を試みる。 [1]については冷却原子を表面近傍の光定在波を用いて表面から数μm近傍への輸送を実現している。さらなる表面近傍への輸送として、打ち上げ法(ファウンテン法)を運用する一方で、重力を利用した落下による表面近傍輸送を試みてきた。表面近傍での薄膜原子波による光電磁場測定の確立を行う。 [2]については911nm光の照射実験を安定運用してきた。今年度では光アンプを安定運用し、数百mW程度の高強度光源を用いて[1]の実験との統合化を目指してきた。 [3]についてはLG光の整備および光学禁制遷移を用いた照射実験を行った。また5P-5D遷移である776nm光の非線形光学測定を行い、LG光の光圧のモード依存性への応用を検討してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、光電場が担ってきた光学許容遷移である電気双極子遷移ではなく,光磁場が担う光学禁制遷移を利用した新しいナノ光計測と光操作を目指してきた。[1]冷却原子によっる薄膜状の原子波に、[2]光磁場を透磁率変化により転写し、[3]光磁場による新しい量子操作へと発展,に対応する進捗状況を以下に報告する。2020年度に引き続き2021年度においても新型コロナ禍によって実験時間の確保が困難であったため当初予定していた[1][2][3]の結合には至っていないが、これらの部分的融合([1]および[2]の簡易測定)については実現しており、それぞれの項目についてさらなる研究を行ってきた。 [1]では、表面から数μm程度の領域の光定在波内からのさらなる輸送が問題となっていた。原子波と表面相互作用を探索するために原子波を表面方向へ打ち上げるファウンテン実験を実施したほか、下方表面への輸送の可能性を見積もった。重力による落下と表面近傍での薄膜原子波による光電磁場測定の確立を目指している。統合化の進捗は遅れたものの薄膜原子波の運動制御の本質的な素過程解明への重要な要素技術を築いてきた。 [2]および[3]においては[1]の確立が必須であるが,今年度でも新型コロナ禍による制限下による実験時間内では順調に進展したと言い切れない。一方で、LG光の安定生成および光圧と光双極子力のハイブリッドポテンシャルを実現している。また[3]の量子操作はコヒーレント制御することが必要であり 5P-5D遷移を用いた非線形光学効果による誘導放出の制御およびラビ振動による量子制御を用いてコヒーレントに操作することが可能となった。局所的に制御するためには前年度に確立したエバネッセント光による光近接場自体による薄膜原子波への直接的な影響を利用できる。それぞれ深化した研究成果が出ており次年度につながる重要な結果を導く可能性を得た。
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今後の研究の推進方策 |
これまで実現した[1]薄膜状冷却原子波生成,[2]LG光による特異な光磁場の原子波への部分的転写、[3]に向けた非線形光学効果による量子操作の基礎実験結果を踏まえ、薄膜状原子波を用いた光磁場転写と量子測定の実現を目指す。輸送および重力落下を用いた表面最近傍領域での顕微分光を試みる。観測装置の整備については5S-5P(780 nm)および5P-5D励起(776 nm)、および磁気双極子・電気四重極子励起である5P-6P励起(911 nm)を用い、緩和過程である6P-5S遷移(420 nm)の測定を引き続き確立する。特に,これまで整備してきた911 nmレーザー光の光増幅器の安定運用と、5P-6P励起の高効率化および高強度光磁場生成による光磁場転写実験の高安定化を行う。 高感度測定のためには、冷却原子気体にさらなる冷却および高密度化を施し、ボースアインシュタイン凝縮体(BEC)の実現が有用と見積もった。今年度は表面近傍のBEC実現と安定生成を実施し、凝縮体の落下実験を行う。特異な光磁場との相互作用測定ではエバネッセント光の光圧を利用して測定時間の長期化を狙う。またLG光と冷却原子波への照射実験法を確立する。前年度から計画してきたBECを用いた量子原子波と特異な光電場との相互作用について発展させ,量子気体への特異な量子操作の実現を目指す。 現在実現している水平交差型光トラップに加えて、垂直方向との干渉効果を用いたディンプルトラップを用いて高密度化と高効率冷却を行う。全光学的なBEC生成によりスピン自由度を有するスピノールBECの実験が可能でなり,特異な光磁場とBECとの相互作用による光磁場転写を利用し、量子渦生成や表面励起生成として観測することが期待できる。表面近傍領域におけるBECの安定生成とコヒーレントな量子操作により量子薄膜原子波の実験を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算執行についてはおおむね計画通りに執行しており、前々年度の繰り越し分の英国研究者招聘分が引き続き新型コロナ禍による次年度以降へ持ち越すこととなった。
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