研究課題/領域番号 |
19K03706
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
土屋 聡 北海道大学, 工学研究院, 助教 (80597633)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機分子結晶 / 電荷ガラス / 時間分解分光 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は、現代物理学最大の未解決問題である「ガラス転移の解明」である。そのために近年基礎、応用の両面から注目を集めている有機分子結晶の電荷ガラス状態を研究対象とする。本研究では電子系のみを瞬時に励起可能なフェムト秒光パルスを用いたポンププローブ分光を実施し、光パルスで励起された電子の緩和ダイナミクスが示す偏光特性と温度特性から、電荷ガラス状態の波数(k)空間における電子系の対称性変化及びエネルギーギャップ形成を明らかにする。さらに「電荷秩序」と「電荷ガラス」の違いを明確化することで、ガラス転移の本質に迫る。 初年度は電荷秩序状態および電荷ガラス状態におけるダイナミクスの特徴付けを行うため、q-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4(以降q-Rb)とq-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4(以降q-Cs)において、試料を徐冷することで得られる電荷秩序状態(転移温度~200K)および電荷ガラス状態(転移温度~100K)において偏光分解ポンププローブ分光測定を行った。特に室温から50K程度の温度範囲で、光誘起された電子の緩和ダイナミクスの偏光依存性と温度依存性を中心に測定した。その結果q-Rbの電荷秩序状態は、室温からダイナミクスに偏光依存性が観測され、それが転移温度で増加し、またの緩和時間も発散的に増加することがわかった。この振る舞いは、転移温度以下で長距離の電荷秩序状態が現れ、それに伴いエネルギーギャップが開いたと解釈することができる。他方q-Csの電荷ガラス状態でも同様の偏光依存性が観測されたが、転移温度以下で緩和時間に大きな温度依存性は見られず、逆に偏光依存性成分が転移温度付近から減少することがわかった。この結果は電荷ガラス状態は短距離の電荷秩序状態のドメインが形成されていることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標である、電荷秩序状態および電荷ガラス状態におけるダイナミクス測定、詳細な解析を十分に行うことができたと考えている。特に電荷秩序状態および電荷ガラス状態で似ている部分と異なる部分を明確にできたことは、今後の研究において非常に重要な進展である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、50K以下の低温領域を調査する予定である。特に電荷ガラス物質のq-Csは他の物性研究では、低温で異常な振る舞いが報告されており、ダイナミクスの観点からどのような電子状態が実現されているか明らかにする必要があると考える。 また余裕があれば、q-Rbにおいて急冷条件での測定を考えている。q-Rbは急冷することで電荷秩序が抑制され、電荷ガラス状態が現れることが指摘されている。q-Rbの電荷ガラス状態を調査することで、q-Csで観測されたダイナミクスの普遍性を確かめることができ、またガラス状態特有のメモリー効果やエイジング効果などの調査にもつながると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初設備費として低振動型クライオスタットの購入を予定していたが、温度コントローラーが必要になったため、先にそちらを購入した。そのため差額が生じている。次年度は差額と合わせ、可動ステージや光学素子を購入し、測定設備の完成、充実をはかる。
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