研究課題/領域番号 |
19K03708
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
柴田 尚和 東北大学, 理学研究科, 教授 (40302385)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 近藤効果 / 近藤雲 / 局在スピン相関 / 近藤温度 / 電子間斥力 / 密度行列繰り込み群 |
研究実績の概要 |
今年度は、量子ビットを構成する複数局在スピンが伝導電子を介して結合する際に形成される量子相関を理解するために、局在スピンの周囲に形成される近藤雲と呼ばれる伝導電子の波動関数を解析し、その特徴を明らかにした。局在スピンの周囲に形成される近藤雲は、空間的に広がった非局所的な構造を持ち、隣接する局在スピンだけでなく空間的に離れた局在スピンの間にも量子相関を生み出す。その解析のためには、人為的に設定する系の境界条件の影響を抑える必要があり、本研究ではその影響を抑制するサイン二乗変形法(SSD)を適用した密度行列繰り込み群法を用いて解析した。 基底状態の波動関数の構造を系統的に理解するため、局在スピンと伝導電子間の相互作用、および伝導電子間の相互作用の大きさを変化させて相関関数を解析し、その結果、近藤効果のエネルギースケールである近藤温度が近藤雲のべき減衰の空間構造をクロスオーバー的に変化させる特徴的な長さスケールを与え、伝導電子間の斥力相互作用はこの長さスケールを減少させ、有効的に近藤温度を増加させることを明らかにした。さらに、このような近藤効果が複数の局在スピンの存在によって受ける影響を解析するために、複数の局在スピンを隣接させて配置したときの局在スピンと伝導電子間の相関関数を調べた結果、局在スピン間の相関が反強磁性的な場合には近藤効果が増強され、有効的に近藤温度が増加し、逆に強磁性的な相関が局在スピン間に形成される場合には、近藤効果が弱められ、実効的な近藤温度の低下が生じることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子ビット間の量子的相関の強さをスケールすると考えられる近藤雲の空間構造を明らかにできたことで、量子ビットの制御に必要な条件や環境についての基礎的な知見を得ることができ、近藤効果に関する過去の研究との整合性も確認できた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、量子ビットの動的制御に関する知見を得るために、複数の局在スピンが伝導電子によって結合する場合の時間発展ダイナミクスを解析して、量子ビット間の相関の制御を可能にする条件を明らかにしたい。特に、基底状態において局在スピン間相関が急激に変化する転移転付近で生じる局在スピン間相関の時間発展を調べ、基底状態の変化がダイナミクスに及ぼす影響について考えたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による出張の取りやめと半導体不足による高性能電子部品の調達の難しさから、予定していた使用額を変更することになった。計算機の購入を次年度に先送りすることになったが、既存計算機の効率的な運用によりその影響を抑え、より高性能な新型の電子部品を次年度に調達することで、計画当初の目標を達成したい。
|