研究課題
位相幾何学的な欠陥の一つである磁気スキルミオンの電流下での駆動状態を調べる研究を行っている。電流下で駆動中の磁気スキルミオン格子で起きる格子変形を中性子小角散乱で観測し、同じく電流で駆動することが議論されている第二種超伝導体の量子渦で観測されている動的な状態と比較することで、位相幾何学的な欠陥の外力中における非平衡定常状態及び非平衡非定常状態の物理を議論したいと考えている。初年度は主に過去の研究で構築した低温(30 K 程度)かつ定常高電流(3 Ampere 程度)の条件下で中性子小角散乱実験可能な実験セッティングを使用した実験を行った。低温磁場下で磁気スキルミオン格子を形成する相を持つカイラル磁性体MnSiにおいて、定常電流下での磁気スキルミオン格子の非平衡定常状態を観測する追加の実験を行い、磁気スキルミオン格子は塑性変形を起こしながら駆動する「塑性流動」を起こしていることを示し、それらの結果を論文としてまとめた。また、定常高電流下の小角中性子散乱実験セッティングを改造して変動電流を印加することを可能とし、更に電流反転をトリガーにして観測中性子散乱強度を時間分割測定する実験セッティングを米国NISTのNCNRの共同研究者と開発した。開発したセッティングを用いてMnSiの磁気スキルミオン格子に変動電流を印加する予備実験を行った結果、磁気スキルミオン格子の塑性変形が電流反転に追随するには、磁性現象としては非常に遅い時間スケールの緩和を有していることを発見した。以上のように駆動中の磁気スキルミオン格子の動的な状態をも小角中性子散乱で観測することに成功している。
2: おおむね順調に進展している
米国NISTのNCNRでの定常電流下及び変動電流下のテスト実験、測定試料であるMnSi単結晶の育成は事前に準備を行っていた。そのため、初年度の目標であった定常電流下での追加実験を行いその結果を論文としてまとめ、変動電流下での電流反転をトリガーとした時間分割小角中性子散乱実験を可能とするシステム構築を順調に進めることができた。
初年度の研究は順調に遂行されたが、初年度末から発生しているコロナ禍の影響により、既に令和2年度のはじめに米国NISTのNCNRで予定していた変動電流下での追加実験がキャンセルとなった。そのため、中性子散乱実験遂行の計画にはこれから遅れが生じると予想している。米国NISTが復帰するまでは、研究室内での予備実験が必要である小角中性子散乱実験用の電流下での新しい同時測定セッティングの開発を優先して行いたいと考えている。
令和元年度に行った変動電流下での電流反転をトリガーとした時間分割小角中性子散乱実験セッティングの構築及びその予備的な実験が大変うまく行き、初年度はその実験を中心として進める方向に舵を切った。そのため、当初購入を予定していた小角中性子散乱実験の電流中での新しい同時測定セッティング構築のための物品購入が遅れてしまったことが原因である。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
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http://www2.tagen.tohoku.ac.jp/lab/news_press/20190712/
http://five-star.tagen.tohoku.ac.jp/talk/talk_01.html