研究課題
昨年度同様に位相幾何学的な欠陥の一つである磁気スキルミオンの電流下での駆動状態を調べる研究を行った。今年度はコロナ禍によって米国NISTのNCNRとの共同研究が停止し、電流下における中性子小角散乱の実験的研究は停滞を余儀なくされた。昨年度末に継続して行っていた30 K程度の低温かつ定常/変動高電流下の中性子小角散乱実験で得られた研究結果の詳細な解析を行い、昨年度に報告した磁気スキルミオン格子の塑性変形の変形方向は電流の反転によって明瞭な時間変化を示していることを示した。そのタイムスケールは数秒程度と磁気現象としては非常に遅い運動であり、またその緩和は単純なデバイ緩和に従っていることも解析によって示した。以上のように磁気スキルミオン格子で電流中で発現した塑性変形の変形ダイナミクスの詳細を本年度行った解析によって示すことに成功したと考えている。このような塑性変形やそのダイナミクスは、同じく電流で駆動するとされている第二種超伝導体の量子渦では観測されていない。量子渦で観測されなかった理由は、試料の体積で規格した中性子散乱強度が量子渦に比べて磁気スキルミオン格子は5桁以上も強いためであると考えている。そのため磁気スキルミオンでは駆動中の位相幾何学的な欠陥の試料内の場所依存性を極小の入射中性子を使って測定でき、結果として試料端付近の情報のみを取り出した。これまで観測されなかった位相幾何学的な欠陥の外力中における新しい駆動状態を観測することに成功していると考えている。
3: やや遅れている
2020年度前半より激化したコロナ禍の影響により、米国共同研究先への出張停止が余儀なくされた。本研究は高電流下における実験遂行の困難さより、申請者が現地に行かないオンライン実験で行うことは不可能であり、継続した中性子実験的研究は行うことはできなかった。米国の装置管理者に問い合わせてみたところ少なくとも2021年の初旬~中旬ぐらいまでの外部訪問者の実験許可はおりそうになく、方針の変換を迫られている状況である。一方で前年度に得られた変動電流下での中性子小角散乱実験結果の解析に関しては一定の進捗があったため、「やや遅れている」と自己評価した。
上述した理由により研究計画の修正を行う必要があると考えている。具体的には、これまで米国NISTとの共同研究で全ての研究を進めてきたが、今年度から再稼働し申請者も装置の再起動に協力している日本国内研究用原子炉JRR-3号炉の装置を使うことを視野に入れる。その場合、電流下の中性子小角散乱装置だけでなく三軸分光器等をも使って実験的な研究を進めていき、遅れを取り戻したいと考えている。
コロナ禍のため米国での出張実験が軒並みキャンセルになってしまった。そのため、当初予定していた旅費と新しい高電流下での中性子実験用試料マウント作製用の物品費を使用できなかったことが原因である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち招待講演 1件)
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 90 ページ: 025003~025003
10.7566/jpsj.90.025003
Physical Review Research
巻: 2 ページ: 033038-1-9
10.1103/physrevresearch.2.033038
Journal of Physics: Condensed Matter
巻: 32 ページ: 415801~415801
10.1088/1361-648x/ab9343
巻: 32 ページ: 485801~485801
10.1088/1361-648x/aba921