ナローギャップ半導体鉄シリサイド(FeSi)の超強磁場下における物性を明らかにすることを最終目標とする本研究では、2年目までに500テスラに至る超強磁場下での電気伝導度測定を行い、温度-磁場相図を作成した。3年目では所属機関が東京大学物性研究所から理化学研究所に変わったことに伴い、特殊実験環境である超強磁場下での実験の継続はできなくなったが、幸い研究成果をまとめるのに十分な量のデータを取り終えていたため、追加のデータ解析などを行って投稿論文にまとめた。米国科学雑誌Physical Review Letter誌への掲載が決定され、さらに、Physical Review Letters誌に掲載される論文の中でも、特に重要かつ興味深い論文であるとして、Editors’ suggestionに選出された。 2年目終了時の時点では、理化学研究所においてFeSiの類縁物質の合成に着手することも検討し、各種実験道具を新しい所属機関内において揃えるところまでは準備していたが、特定の別プロジェクトに係る研究に従事するエフォートが大きくなったため、現在までに実験は進行していない。今後、機会を見て研究を継続していきたいと考えている。 また、理化学研究所内でも簡易的なパルス強磁場実験(30テスラ程度)が行えるような実験装置を開発中である。本研究で明らかになってきた、低温で輸送特性を支配するインギャップの準粒子に関するダイナミクスの研究などは、比較的低磁場領域でも高周波電気抵抗の磁場依存性に特異な振る舞いが見られると予想できるため、研究を進められるのではないかと考えている。
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