研究課題/領域番号 |
19K03711
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
栗田 伸之 東京工業大学, 理学院, 助教 (80566737)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 量子スピン液体 / キタエフ模型 / 磁場誘起量子相 / 純良単結晶育成 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はα-RuCl3の磁気秩序相が消失する臨界磁場Hc近傍における臨界現象を明らかにすることである。積層欠陥の影響を最小限に抑えた純良単結晶の育成方法を確立することやα-RuCl3の関連物質を開拓することも本研究の重要課題である。 本年度はα-RuCl3の熱ホール効果の試料依存性及びCs2LiRuCl6の結晶構造・磁気特性に関する研究成果についていずれもPhysical Review Bに掲載された。前者の論文では、3つの異なるα-RuCl3単結晶の熱ホール効果測定を行い、最近報告を行った熱ホール伝導度の半整数量子化[Y. Kasahara et al., Nature 559, 227 (2018)]が再現性のある臨界現象であることや半整数量子化を示す試料の条件が存在することを示した。後者の論文では、α-RuCl3の関連物質の探索を行っている過程で偶然得られたCs2LiRuCl6の結晶構造解析及び磁化・比熱測定を行い、本物質がスピン1/2一次元Heisenberg反強磁性体として記述される六方晶構造の磁性体であることを明らかにした。また、フラストレーションの強いスピン系の量子相転移と磁気励起の研究に関して、学会奨励賞(電子スピンサイエンス学会)を受賞した。 一方、昨年度に引き続きα-RuCl3の純良単結晶を育成することが困難な状況となっている。粉末原料に何らかの変化が生じたことが大きな原因と考えらえる。異なる製造元の粉末原料を試したが同様の結果であった。結晶性の良い部分のみを収集し何度も合成を繰り返すことで単結晶の結晶性に向上は見られたが、以前得られていた単結晶の純度には至っていないのが現状である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はα-RuCl3の熱ホール効果測定やCs2LiRuCl6のCs2LiRuCl6の結晶構造解析・磁化・比熱測定についての研究成果がPhysical Review Bに掲載された。一方、α-RuCl3の純良単結晶を得ることは昨年度に引き続き困難な状況となっている。本研究計画にはα-RuCl3の純良単結晶が必要不可欠なため、当初の計画より遅れが生じている。以上を総合的に判断し、進捗状況は「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
α-RuCl3単結晶の純度が向上するような条件(電気炉の炉心の温度等)を見出す。得られた純良単結晶試料の磁化・比熱・ESR測定を行い磁気相図を決定する。特にHc付近での振る舞いを詳細に調べ臨界現象を明らかにする。得られた結果の十分な解析及び議論を行い論文執筆を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も昨年度に引き続き研究遂行に必要不可欠となる純良単結晶が得られなかった研究に遅れが生じた。更にコロナ禍の影響により予定していた出張や学会参加を見送ることとなった。このような事情により次年度使用額が生じた。次年度使用額については石英管や試料の原料に充当する予定である。
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