研究課題
本研究の目的はα-RuCl3の磁場誘起量子相で発現する臨界現象を実験的に明らかにすることである。そのためには非本質的な磁気秩序をもたらす積層欠陥の影響を最小限に抑えた純良単結晶が必要不可欠となる。しかし、一昨年前から粉末原料に何らかの変化が生じ従来の育成方法ではα-RuCl3の純良単結晶を得ることが困難となった。昨年度に引き続き本年度の前半は結晶性の良い部分のみを収集し何度も合成を繰り返す方法で解決を試みた。しかし以前得られていた単結晶の純良度(ab面と平行方向に容易に劈開し、その劈開面には金属光沢を有する)には至らなかった。そこで、熱処理後に僅かに得られるフィルム状のα-RuCl3単結晶を取集し再合成する方法に切り替えた。現時点では十分な量の単結晶が得られていないため次年度に再合成を行う予定である。本年度は共同研究で行ったα-RuCl3の磁場誘起量子相に関する3つの研究成果が学術雑誌(Nature Physicsに2報、Scienceに1報)に掲載された。1つ目の論文では、先行研究よりも詳細な温度・磁場領域でα-RuCl3の熱ホール効果測定を行い、10Tを超える広い磁場領域で半整数熱量子ホール効果が観測されることを示した。2つ目の論文では、α-RuCl3の半整数熱量子ホール効果の符号が特定の磁場方向で反転することを見出した。理論研究との比較により本物質の磁場誘起量子相におけるトポロジーが実験的に初めて明らかなった。3つ目の論文では、様々な磁場方向での精密比熱測定により励起ギャップの磁場方向依存性を明らかにした。本研究はマヨラナ粒子系におけるバルク状態の性質を実験的に初めて検出したという学術的意義を有する。
3: やや遅れている
昨年度に引き続き、α-RuCl3の純良単結晶を得ることが困難な状況となっている。そのため当初の研究計画と比較し遅れが生じている。一方、共同研究で行ったα-RuCl3に関する研究成果がScienceに1報およびNature Physicsに2報掲載された。以上を総合的に判断し、進捗状況は「やや遅れている」とした。
本年度から開始したα-RuCl3の単結晶育成方法(フィルム状の純良単結晶を収集し再結晶化させる方法)を継続して行う。得られた純良単結晶試料を用いてHc付近での振る舞いに焦点をあてて磁化・比熱・ESR測定を行う。これまでに得られた結果を精査し、論文執筆を含む成果発表を行う。
コロナ禍の影響により参加した学会・研究会の全てがオンラインで開催された。そのため出張に伴う費用が当初の予定より少なくなった。次年度使用額については学会参加等の成果発表に伴う費用に充当する予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件) 学会発表 (5件)
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