研究課題/領域番号 |
19K03713
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
摂待 力生 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00251041)
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研究分担者 |
上床 美也 東京大学, 物性研究所, 教授 (40213524)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フェルミ面 / ドハース・ファンアルフェン効果 / 高圧 / 単結晶育成 |
研究実績の概要 |
本研究では,量子相転移や金属絶縁体転移を示し,まだフェルミ面が明らかにされていないf電子系,d電子化合物のフェルミ面の研究を行い,超伝導や磁性の発現の舞台となるフェルミ面の性質の理解を深めることを目的としている。そのために,単結晶育成を行い,定荷重式圧力発生装置と各種圧力セルを組み合わせた極低温・強磁場・高圧下のドハース・ファンアルフェン振動の観測システムを開発することとしている。まず,本年度は研究対象とする化合物の単結晶育成に取り組んだ。 (1) 重い電子系セリウム化合物 CeIrIn5のCd, Sn置換系の研究:CeIrIn5は,磁気秩序を示さない重い電子系化合物である。磁場中では磁化に異常が現れるメタ磁性が42T付近にされ,磁化には異常が観測されないが,電気抵抗や比熱に30Tで異常が観測されており,フェルミ面のリフシッツ転移があると考えられる。そこで,本研究では,InサイトをCdで数%置換し,f電子を遍歴状態から局在状態へと変化させ,メタ磁性やフェルミ面,磁気構造を,強磁場磁化,ドハース・ファンアルフェン効果,中性子散乱実験から調べた。 (2) カゴ状結晶構造をもつCeRh2Cd20 これまで,CeCr2Al20型の構造を持つCeT2X20系として,CeIr2Zn20やCeRu2Zn20が知られており,その4f 電子は遍歴的である。本研究では,原子間の距離を広げ,f電子に局在をもたらすため,ZnをCdで置換したCeRh2Cd20の単結晶育成に成功し,その基礎物性を調べた。 (3) エキシトニック絶縁体候補物質 TiSe2 TiSe2はエキシトニック絶縁体候補物質の1つであり,圧力下で超伝導を示す。本年度は,ヨウ素を輸送媒体とする化学輸送法でTiSe2 の単結晶育成を行なった。主に育成条件の探索と,常圧での電気抵抗測定,圧力下の磁気抵抗測定を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度主に取り組んだ重い電子系セリウム化合物 CeIrIn5 のCd,Sn置換系の進展状況を中心に述べる。Inサイトを, Cd(Sn)で置換すると, f電子の伝導電子の局在性(遍歴性)が制御できる。まず,SnでInを2.5%置換したところ,メタ磁性は55Tまでの実験では観測されなかった。これは,遍歴性が増強し,メタ磁性がより高磁場へ移ってしまったか,消失してしまったことが示唆される。 一方,Cdで置換した場合も,メタ磁性は徐々にではあるが増大し,5%置換で50Tまで増大した。Cd置換では,遍歴性は弱まるためメタ磁性は低磁場へ移ることが期待されたが,逆の結果であった。このことは,CeIrIn5のメタ磁性が遍歴電子によるものという考えを見直す必要があることを示唆している可能性がある。Cd置換系では,f電子の局在性が強くなる。本研究では,フランス・CNRSグルーノーブル強磁場研究所のI. Sheikin博士らとの共同研究で,Cd10%置換試料について,中性子散乱実験を行い,0.47μBという比較的おおきな磁気モーメントが,QAF=(1/2, 1/2, 1/2)の波数ベクトルを持ち,c軸方向を向いていることを明らかにした。今後,置換系や純粋なCeIrIn5のメタ磁性後のフェルミ面を観測する必要がある。これについては,オランダのナイメーゲン強磁場研究所のA. McCollam博士との共同研究を実施しており,置換系のドハース・ファンアルフェン振動の観測に成功している。今後,リフシッツ転移を含めたフェルミ面々研究を進めていく予定である。 定荷重式圧力発生装置を用いたドハース観測システムの開発については,コロナ禍により,定荷重式圧力発生装置が設置されている東京大学物性研究所の共同利用が停止したため,年度末での実験が停止したが,共同利用が再開され次第実験を再開する。
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今後の研究の推進方策 |
定荷重式圧力発生装置を用いたドハース観測システムの開発をまず進める。幸い緊急事態宣言も解除され,東京大学物性研究所の共同利用が再開され次第,定荷重式圧力発生装置を活用したドハース観測システムの開発を進める。これを用いて,最近取り組んでいるCeRh6Ge4やCeRh2Cd20の常圧および圧力下ドハース振動の観測をめざす。CeRh6Ge4は最近発見されたセリウム系では数少ない強磁性体の1つである。強磁性が消失する圧力は約1GPaと低く,量子臨界点近傍でのフェルミ面の変化を調べるには適した物質である。すでに,残留抵抗比RRRが100を超える純良単結晶の育成には成功している。これまで,CeRh6Ge4の量子臨界点近傍の超伝導は観測されていないが,この超伝導は不純物に敏感な可能性もあるため,フェルミ面とともに圧力誘起超伝導の観測も目指す。エキシトニック絶縁体候補物質 TiSe2に関しては,前述のように単結晶を育成し,常圧での電気抵抗では約190 Kで,電荷密度波(CDW)転移に伴い上昇し、160 K付近で最大値をとって減少する振る舞いを観測した。これは,従来報告されていたものとほぼ同じ振る舞いであった。また,圧力下電気測定では,加圧に伴い室温での電気抵抗率が減少し、より金属的な振る舞いになった。しかしながら,先行研究では2.0 GPa~4.0 GPaの圧力領域で超伝導転移が観測されていたが、今年度育成した試料では超伝導は観測されなかった。またフェルミ面を調べるために、圧力下でシュブニコフ・ドハース振動の観測を期待して、磁気抵抗測定を行なったが、量子振動は観測できなかった。おそらく,Seの欠損などがあると予想される。育成条件を変えることにより,純良な単結晶を行い,金属化したときのフェルミ面の観測を目指す。
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