研究課題/領域番号 |
19K03716
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
佐野 和博 三重大学, 工学研究科, 教授 (40201537)
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研究分担者 |
大野 義章 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40221832)
中村 浩次 三重大学, 工学研究科, 教授 (70281847)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超伝導 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はAxWO3(タングステンブロンズ、Aはアルカリ金属類)の表面やFeSe/SrTiO3界面系などで報告されている高温超伝導のメカニズムを解明することにある。これらの系は常圧下でありながら超伝導転移温度Tcは100K前後となっておりよく知られた高温超伝導体である銅酸化物系で観測されているTcに匹敵し大変興味深い。AxWO3はバルク状態でも超伝導を示すが、そのTcは10K以下であり表面や界面の効果によりTcが大幅に上昇した可能性が高いと言える。 この系の高温超伝導は実験的な検討が進んでおらず超伝導ペアの対称性としてs波的なものが示唆されているがまだはっきりしていない。そこで本研究では、これらの超伝導機構の本質はフォノンと電子相関の両者が助け合って発現しているものではないかという仮説を立てた。そこでまずは第一原理計算により電子格子相互作用定数λを求め、フォノン機構だけを考えたとき、それがTcに対してどれだけ寄与するのかを検討した。その結果、Aの原子としてNaを使ったNaxWO3のバルク系では、Naのドープ量に応じてフォノンの引力が増大しTcもそれにつれて高くなる傾向を示す結果を得た。また電子相関の一種であるプラズマ振動の効果もフォノンと同程度に超伝導に寄与しており、この2つの効果を取り入れることにより、はじめて実験で得られているTcのNaドープ依存性の結果が理論的に再現できることが分かった。これらの成果は論文としてまとめすでに公表済みである。 AxWO3系の高温超伝導ではこのフォノンとプラズマ振動の引力以外の電子相関による引力効果が働いていると期待されるが、その候補として軌道揺らぎの効果があり現在検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AxWO3系のバルク系における超伝導は、プラズマ振動の引力メカニズムが重要な役割を担っていることを本研究で示すことが出来た。しかしながらこのプラズマ振動の引力メカニズムでは高温超伝導を説明することは難しく、何らかの別のメカニズムが必要と考えられる。 これに関しては、一つの可能性として構造相転移に伴う軌道秩序揺らぎによる引力メカニズムが挙げられる。この可能性を検討するために第一原理計算の結果をもとにしたタイトバインディングモデルを構築し軌道秩序揺らぎをもたらす項を付加したモデル計算により超伝導転移温度Tcを評価する研究を行っている。モデル計算ではランダム位相近似を用いて波数依存性や振動数依存をまともに数値計算しているが、温度を下げた現実的な計算をするためには、莫大な計算時間が必要となっている。そのため現状ではまだ現実的なパラメータ領域で計算が出来ていないのであるが今後さらに検討を進めていく予定である。 またフォノンの引力と共に電子間相互作用が超伝導に対して本質的に重要な役割をはたしていると期待される物質としてLaCoSi系があるが、この系にも注目して研究を進めた所、面白い結果が出つつあり、一部はすでに学会発表を行っている。これらのことから、研究の進捗状況は概ね順調なものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
近年発見された超伝導体にはフォノンの引力と共に電子間相互作用が超伝導に対して本質的に重要な役割をはたしていると期待できる物質がいくつかある。今までは主にAxWO3系のバルク系を取り上げて研究を進めてきたが、LaCoSi系もそのような超伝導を考える上で大変興味深い系と考えられる。LaCoSiと同じ結晶構造を持つLaCoGeという物質があるが、これは実験的に超伝導を示さないことが知られている。第一原理計算の結果では超伝導を示すLaCoSi系と同程度の電子格子相互作用を持っており、それから計算される超伝導転移温度は極めて低いものとなっている。これらのことから、LaCoSi系の超伝導はフォノンの引力以外の電子間相互作用が働いて超伝導になっていると考えられ、LaCoGe系ではその電子間相互作用があまり働かず弱いフォノン引力のみが働くため、超伝導を起こすことができなかったものと推測される。 また現状、予備的な理論計算だけであるが、LaCoC系が似たような結晶構造を持ち安定的に存在しうることを見出した。この物質はフォノン引力が他の物質と比べある程度大きいため、フォノンメカニズムだけで超伝導を起こす可能性があることがわかった。 謂わばLaCoX系(X=Si,Ge,C)という括りで物質群を眺めてみると、電子相関による超伝導(X=Si)、超伝導なし(X=Ge)、フォノンによる超伝導(X=C)という超伝導の性質が大きく分かれるにもかかわらずほぼ同じ結晶構造を持つ物質群としてとらえることができ、大変興味深いことが分かってきた。これらは当初予期してなかったが、これらの物質群の研究もフォノンと電子間相互作用の両者が重要な役割を果たす典型的な系として今後研究すべきものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会のオンライン開催が続き旅費が不要になったため、年度末近くに電子計算機購入を検討したが全世界的な電子部品供給不足の影響があり必要な性能を持った電子計算機の購入が困難であったため次年度使用額が生じた。 今年度も学会のオンライン開催が続く可能性があるので、様子を見ながらではあるが電子計算機を購入する予定である。
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