研究課題/領域番号 |
19K03718
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
堀金 和正 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (10406829)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導体 / 中性子 / 磁気励起 |
研究実績の概要 |
本年度はこれまで研究を進めてきたBa1-xKxFe2As2の合成方法を元に最適ドープ領域付近の Ca1-xNaxFe2As2(0.5<x<0.7)の結晶育成を実施した。これまでCa2-xNaxFe2As2の単結晶育成の報告はいくつかなされているが、その結晶サイズはミリオーダーと非常に小さく、非弾性中性子散乱実験が困難とされて来た。本研究課題ではNaAsをフラックス剤として用い、Ca0.5Na0.5Fe2As2の組成比で秤量した出発原料とNaAsフラックスの比を制御することにより cmオーダーの大きさの単結晶育成に成功した。本研究によりこれまでに報告されている結晶サイズを約100倍程度増大させ、中性子実験を実施することを可能にした。 また、上記単結晶を用いてJ-PARC中性子実験装置『千手』および『四季』を用いて未知であった最適ドープ領域の磁気励起および磁気相図の作成を進めてきた。Ca0.44Na0.56Fe2As2(Tc=33.4K)における中性子散乱実験では、過去に実施したBa1-xKxFe2As2と同様に200meVにわたる磁気励起が観測されるなど多くの傾向が一致しており、交換相互作用JとTcとの間に相関関係があることを示唆する結果が得られた。また、磁気励起の分散関係はL方向にも明確な分散関係を有していることが判明した。この結果はCa系ではBa系と比較してc軸長が短いため、強い3次元相関が頑強に残っていることを示している。磁気相図についてはこれまでx>0.5以降の領域では磁気秩序が消失し超伝導相が出現すると報告されてきたが、『千手』による中性子実験により明確な磁気散乱が観測され、母物質と同様のストライプ型の磁気構造が実現することが判明した。キャリアドープにより磁気秩序は抑制されるがx=0.56においても非常に微弱であるが磁気散乱が観測され超伝導と磁性の共存が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において必須の課題であるCa1-xNaxFe2as2の単結晶育成については0.5<x<0.66という最適ドープ領域の単結晶育成に成功した。特に結晶育成の際のNaAsフラックス濃度を制御することによりNa濃度を精密に制御することに成功し、本系の結晶育成法を確立した。また、本結晶を用いた中性子弾性および非弾性実験により1.これまで長距離磁気秩序が消失するとされてきたx=0.5以降で明確に磁気弾性散乱が観測され長距離秩序が頑強に超伝導相に存在する点 2.Ba1-xKxFe2As2と同様に200meVにわたる磁気励起が観測されるなど多くの傾向が一致しており、磁性と超伝導に強い相関関係を示した点およびCa系ではc軸方向の強い磁気相関によりBa系とは異なりL方向にも分散関係を有することを示した点から本研究課題がおおむね順調に進展していると結論付けた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きCa1-xNaxFe2As2における中性子散乱実験により得られた結果の解析を進めるととともに本研究課題で明らかにしたい磁性・超伝導および結晶構造の間の相関関係を明らかにするためにCa(Fe1-xCox)2As2系における中性子実験を進める。具体的にはFRM-Ⅱの3軸中性子散乱装置PUMAを用いて実験する予定である。計画外シャットダウンやマシンタイム不足等により早急に実験出来ない場合は、これまで共同研究により実績を積み上げてきた国内・海外グループとの連携により、海外の中性子施設(オークリッジ国立研究所等)においてビーム タイムを確保する
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次年度使用額が生じた理由 |
単結晶育成に関して共同研究実験を行っている産総研への学生の出張費および投稿予定の論文の英文校閲費が当初想定よりもかかり、物品費にまわすことができなかったため、次年度に物品購入を行うため研究費の一部を繰り越した。次年度ではCa等の試薬購入に充てる予定である。
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