本研究は二鎖一次元分子性導体HMTSF-TCNQ での (1) 異常な反磁性の起源の解明、および (2) 磁場で誘起される新たな電子相の可能性の検証、の二点が主な目的である。(1) 異常な反磁性を明らかにするために二鎖の双方の寄与を明らかにするために複数サイトでの NMR 実験を行い、また、第一原理バンド計算とtight bindingモデルを用いたバンド計算を行い、実験理論両方の側面から研究を行った。理論計算から得られたバンド構造から本系は nodalline を持つ半金属であることが明らかにされた。 77Seと13Cのそれぞれの原子核での NMR 実験によりHMTSF、TCNQ それぞれの一次元鎖の寄与が明らかになった。NMR 実験で得られた状伝導状態での 緩和時間 T1の温度依存性は 1/T1 ∝ T^3 を示し、計算で得られたバンド構造でよく説明できる。このほか CDW 転移がおおむね実験で報告されている波数で起きること、計算された磁化率の実験値を再現すること、な どが確認された。共同研究による輸送特性の測定や理論的研究の進展もあり、NMRと合わせて目的に掲げた(1) についてはかなりの部分が明らかになったといえる。 (2) の点では密度波転移が議論されている圧力領域よりも定圧領域ではあるが、圧力下での 13C-NMR 実験に成功した。 基本的な振舞いは常圧下での振舞いと大きな違いはないものの、ナイトシフト、緩和率ともに常圧の値に比して減少していることが明らかになった。 密度波転移の詳細を議論するには至らなかったが今後の測定につての方針を決めることができるデータを得ることに成功した。
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