研究課題/領域番号 |
19K03721
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
菅 誠一郎 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (40206389)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | キタエフモデル / マヨラナ粒子 / 歪み歪み誘起擬ベクトルポテンシャル / ランダウ準位 / ホールドープ / 超伝導 |
研究実績の概要 |
今年度は昨年度に続いて、以下の2つの研究を行った。 1.異方的相互作用をする蜂の巣格子上のキタエフモデルに歪を加えた系の低エネルギー状態を数値計算と解析計算により調べた。歪みがない場合に励起スペクトルがギャップレスな相互作用の領域を対象とし、まず基底状態がフラックスフリーとなる歪みの強さを明らかにした。次に、フラックスフリーな基底状態におけるエネルギー固有値と局所状態密度を数値計算により調べ、以下の結果を得た。a)低エネルギー領域には量子化された状態が現れ、その量子数依存性はディラック・フェルミ粒子のランダウ準位に等しい。b)エネルギーゼロの量子化準位は、系が時間反転対称性を持つことを反映して、2種類の副格子の片方にだけ現れる。c)異方性が強くなるに従い高エネルギー側の量子化準位は消え、連続帯になる。a), b)は、蜂の巣格子上のキタエフモデルに歪を加えた系では、相互作用に異方性があっても遍歴マヨラナ粒子はランダウ準位に量子化されることを表す。更に、解析計算によっても、この系では歪み誘起マヨラナ・ランダウ準位が現れる事を示した。本研究で得られた結果は、観測や制御が困難なマヨラナ粒子を歪により制御し、その振舞いを観測する研究へと繋がる。 2.ホールをドープしたキタエフモデルの基底状態を繰り込み平均場理論に基づき調べた。この計算方法は先行研究に比べ、仮想ゲージ場を導入する必要がないという利点を持つ。昨年度よりも計算精度を上げて低ドープ領域を調べた結果、ドープ量に応じて、時間反転対称性を破ったp波超伝導状態・破らないp波超伝導状態・特定のボンド上で三重項超伝導相関が発達した状態の三種類の超伝導状態が現れることを明らかにした。また、ハイゼンベルグ相互作用項と対称な非対角相互作用項を導入した拡張キタエフモデルではこれらの超伝導状態に加えて、ネマティック超伝導が現れることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は計画していた研究の中から、歪みに誘起されたマヨラナ粒子のランダウ準位に関する研究成果を論文にまとめ、専門誌に投稿した(T. Yamada and S. Suga, arXiv: 2301.05330)。「研究業績の概要」に書いた「研究1」は、本研究課題を進めている間に、その重要性から新たなテーマとして取り上げた物で、研究成果は日本物理学会やHFM2022やLT2022などの国際会議で発表した。代表的なキタエフ候補物質である\alpha-RuCl3の単層膜を作成する研究が日本物理学会で報告され、その物性が活発に調べられている。その研究は、歪みが誘起する遍歴マヨラナ粒子のランダウ準位の研究に繋がる事が期待される。 研究計画に書いた内容である「研究2」では、昨年度よりも精度を上げて計算した結果、新たなクーパーペア対称性を持つ超伝導状態を見出すと共に、より詳細な相図を得ることが出来た。結果は現在、論文にまとめている。キタエフ候補物質にホールをドープする研究は基板に\alpha-RuCl3薄膜を接合した系で行われ、最近、複数の論文が出版されている。実験に先立つ我々の研究は、ホールドープしたキタエフ候補物質における超伝導の実験研究に刺激を与えると考えられる。 このように、計画した研究はもちろん、新たなテーマを取り入れながら研究は順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
以下の研究を行うとともに、最終年度として研究の総括を行う。 1.相互作用の異方性が強くなり、歪みがない場合にエネルギーギャップが生じる相互作用の領域における低エネルギー状態を数値計算と解析計算の両方で調べ、遍歴マヨラナ粒子のランダウ準位が現れるかどうかを明らかにする。その相互作用領域では、励起連続帯が低エネルギー領域まで伸びて、マヨラナ粒子のランダウ準位が現れる領域が低エネルギーの狭い範囲に限定されるか、励起連続帯しか現れない可能性がある。これを調べるには系のサイズを大きくして、計算精度を上げる必要がある。また、3軸歪を回転させた場合にマヨラナ粒子のランダウ準位がどのように影響されるかを調べる。 2.(拡張)キタエフモデルにホールをドープした系の基底エネルギーは、ドープ量の関数として上に凸の依存性を示す。これは相分離の不安定性を示唆する。そこで次近接飛び移り積分を入れることでこの相分離不安定性を取り除けるかどうか、すなわち相分離不安定性が内在的かどうかを調べる。また、変分波動関数の精度を上げることで、この問題を調べると共に、既に得られている超伝導状態の安定性も確認する。 3.キタエフ候補物質のバンド構造を密度汎関数法などで計算し、その結果を基に揺らぎ交換近似でキャリア間有効相互作用を計算する。そしてエリアシュベルグ方程式を解くことで、超伝導状態のペア対称性を調べる。得られた結果を2の結果と比較し、現れる超伝導状態のペア対称性とドープ量・温度に関する相図を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で参加予定していた国際会議への参加ができなかった事などにより、研究の進展に支障があったため。
|