研究課題/領域番号 |
19K03722
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
常盤 和靖 東京理科大学, 基礎工学部電子応用工学科, 教授 (60307709)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多層型銅酸化物超伝導体 / 頂点フッ素系超伝導体 / 電子相図 / 単結晶 |
研究実績の概要 |
多層型銅酸化物超伝導体がその系の中に本来的に持っている内側のCuO2面は、電荷供給層からの距離が遠く乱れの影響が少ない理想的なものであり、ドープしたモット絶縁体の理想的な研究対象である。この理想的なCuO2面の電子相図を研究するため、本年度は、4~6枚系の単結晶試料合成を行った。できる限り純良な試料の作製を目指すため原料作製条件の見直しを行った。原料焼成を露点管理のなされた環境で行うなど、再現性を得るための取り組みを行った。4~6枚系単結晶作製に対する出発原料の組成比は、目的とするCuO2面の枚数の違いにかかわらず同一組成を基準として行った。 4枚系試料の作製は、出発原料の銅の組成比を減らす、もしくは酸素量を増やすことで得られた。炭酸バリウムを分解して作製した酸化バリウムを使用する、あるいは酸素供給剤として酸化水銀をわずかに添加すると、これまで行っていた作製方法と比べると50℃程度低温で成長できることが分かってきた。5枚系に関しては、Tc=65K程度の試料を再現性良く作製が可能となった。さらに、より広範囲なキャリア濃度の試料を作製するために、酸素とフッ素の組成比を変化させる実験を行った。しかしながら、本年度の実験ではTcの変化が3K程度でしかなく広範囲に電子相図を明らかにするためには十分ではなかった。より広範囲な原料の組成比を調査していく必要がある。6枚系に関しては、まだ十分な再現性が得られていない。出発原料の組成比ばかりでなく原料作製の工夫をさらに進める必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、頂点フッ素多層型銅酸化物超伝導体の4~6枚系の単結晶試料育成を再現性良く行うことを目指して行った。4枚系に関しては、原料の組成比を変化させることで得られることが分かってきた。強磁場実験を行うための試料作製が可能となったと考えられる。炭酸バリウムを分解して作製した酸化バリウムを使用する事、酸素供給剤として酸化水銀をわずかに添加することによって結晶育成温度を低下させることができた。また、結晶サイズも目的とする面内で1mm程度の大きさのものが得られることが分かってきた。この手法は他の枚数の単結晶試料合成にも有効な方法であるものと考えられる。5枚系に関しては、再現良く単結晶試料を作製することが可能となっており、物性測定への展開を進めることが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
多層型銅酸化物超伝導体の電子相図を明らかにするためには、キャリア濃度をさらに変化させた単結晶試料の合成が必要である。これまで得られている試料よりも広範囲のキャリア濃度を持った試料の作製を継続して進めていく。Hall効果測定のためにはある程度の大きさを持った試料が必要であるが、磁気トルクを利用した量子振動の実験はそれほど大きな試料を必要としない。単結晶試料のサイズをより大きなものにする取組みとともに、キャリア濃度を広範囲に変化させた試料作製も同様に進める。今年度後半からは、現状得られている試料も含めて高磁場実験を開始し、物性測定をすすめ電子相図解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算は、本年度購入可能であった高圧合成に必要な消耗品の購入に充てさせていただいた。予定購入価格よりも安価に購入できたので差額がでた。差額も利用して本年度も、同じく試料作製に必要な消耗品である金カプセルなどの購入に利用させていただきたいと考えている。
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