研究課題
多層型銅酸化物超伝導体(MLC)の結晶構造中には、結晶学的に非等価な超伝導を担うCuO2面を2種類以上持っている。5配位の電荷供給層に隣接するCuO2面(OP)が乱れの影響を受けやすいのに比べ、OPに挟まれた4配位のCuO2面(IP)は平坦で乱れが少ない。本研究は、CuO2面の本質的な性質を理解するための理想的な舞台としてIPに注目し、その電子状態を明らかにすることを目的としている。本研究では、MLCとして頂点フッ素系ホモロガスシリーズの3~6枚系に着目し、高温高圧下の単結晶試料育成と高磁場下の輸送特性評価を中心に研究を行っている。今年度は、単結晶育成において、さらに作製できる頂点フッ素系の得られる枚数系のバリエーションを増やすこと、および各枚数系のキャリア濃度を変化させた試料を得るための工夫を行った。出発組成を変化させることによって、3~6枚系の単結晶試料をコントロールして得ることが可能になってきた。特に、我々のグループでは作製が難しかった3枚系の単結晶も測定に必要とされるサイズで得ることが可能となってきた。これまでの我々の研究の中心であった5枚系は、キャリア量が少ない領域の研究に適している。これに対してCDWが観測されると期待されるキャリア量をIPで実現するには、キャリア量のより多い領域を調査する必要があると考えられるため、本年度は、4枚系の単結晶試料について60Tまでの高磁場下でHall効果測定を行った。この試料のCuO2面1枚当たりの平均キャリア数は、9Tの磁場下で測定したホール係数から0.10と求められ、これまで測定してきた5枚系や6枚系よりも多いものであると考えている。しかしながら、60Tまでの磁場下での結果は、Hall係数の符号は正で、少なくとも60Tまでの領域でYBCOなどで報告されている符号変化が観測されないことを確認した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度までは作製できていなかったCuO2面3枚系の測定に必要とされるサイズの単結晶を得ることに成功した。また、5枚系や6枚系のIPよりもキャリア量が多くなると考えられる4枚系試料で高磁場下のホール効果測定を行い、Y系超伝導体で報告されているような符号変化がみられないことを確認した。
研究目標をさらに発展的に達成していくためには、現状よりも広範囲のキャリア濃度に亘ってIPの電子状態を調査していく必要がある。そのため、(1)頂点フッ素系超伝導体の単結晶試料作製における材料開発と、(2)物性評価の観点から、以下のように研究を進めていく。(1)頂点フッ素系超伝導体の単結晶育成 これまでの研究では、我々が比較的単結晶を得やすい5枚系中心の実験であった。これまで測定した5枚系単結晶試料のIPのキャリア濃度は、角度分解光電子分光や量子振動実験の結果から、低温で超伝導性が出現し始める程度のアンダードープ領域にあることが分かっている。現状得られている試料よりも、OPの頂点位置への酸素ドープ量を増やした5枚系単結晶試料の作製条件最適化を行う。併せて、5枚系よりも多くのキャリア濃度領域の調査に適していると考えられる3枚系、4枚系の単結晶育成にも取り組む。昨年度の研究で、ある程度のサイズを持ったこれらの試料の作製が可能となったので、キャリア濃度をより広範囲に変化させて試料の作製を行う。(2)IPの電子状態の評価 (1)で記した3~5枚系の頂点フッ素系超伝導体単結晶試料を用いて、より広範囲なキャリア濃度を持ったIPの電子状態の理解を目指す。具体的には、これらの試料を中心として10T以下の低磁場から10T以上の高磁場における電気伝導率測定や、量子振動測定、Hall効果を行って、CDW相や擬ギャップに関わる振る舞いの観測を行う。上記の材料作製および物性測定を行い、本研究の目標達成を目指していく。
仕様計画時に予定していた金額よりも安価に物品を購入できたために差額が生じたため。
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Science
巻: 369 ページ: 833~838
10.1126/science.aay7311