研究課題
銅酸化物高温超伝導体は,発見以来35年以上の年月が経つが,高い超伝導性発現のメカニズムの統一した理解には至っていない。我々は,単位格子に3枚から6枚のCuO2面をもつ頂点フッ素系多層型銅酸化物超伝導体に注目した。これらの単結晶試料合成と高磁場下の物性特性評価を通して,多層型銅酸化物が持つ乱れの少ないCuO2面の性質の理解を目指して研究を行った。特に,Y系などで,c軸に垂直な磁場を印加し超伝導を抑制することによって,Hall係数の符号変化として観測されるCDW相が,多層型超伝導体でどのような形で観測されるのかに着目した。単結晶試料は,高温高圧合成法を用いて4万5千気圧の圧力下で作製を試みた。我々のグループでは比較的作製が容易な5枚系を中心として,6枚系,4枚系,3枚系の順に作製可能な系のバリエーションを増やす試みを行った。原料の見直しや出発組成を変化させ,合成温度を最適化することにより,5,6枚系では面内で1mmメートル程度,3,4枚系では500μmを超える試料の作製に成功した。これにより,多層型超伝導体の「理想的にきれいなCuO2面」を利用した様々な物理特性を評価する下地ができたと考えられる。CuO2面の物理的な性質を調査するため,これらの作製可能になった単結晶試料を用いて電気抵抗率測定や,60Tまでの高磁場下における量子振動測定やHall効果測定を行った。本研究に用いた4~6枚系の試料では,高磁場を用いた量子振動測定の結果から,小さなフェルミ面に由来すると考えられる量子振動が観測された。これに対し,3枚系試料では4~6枚系の試料に比べ高いTcをもち, 60Tまでの磁場では超伝導性を消すことができなかった。60Tまでの磁場で超伝導を抑制可能であった4~6枚系のHall効果測定では,少なくとも測定範囲内でHall係数の符号が正であり,符号反転は観測されなかった。
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