研究課題
時間反転対称性の破れたカイラル超伝導体は,試料表面近傍にゼロ磁場下で自発的に電荷流を流し,またバルクの波動関数がトポロジカルに非自明な構造をもつトポロジカル超伝導体の有力候補になるものとして大きな関心を集めている。そこでは実験・理論とが強く結びついており,その候補と見なされてる物質に対し理論側からの微視的観点に立脚した情報提供ならびに新奇物質開発に関わる提案,支援を行うことは極めて重要である。本研究では時間反転対称性の破れたカイラル型超伝導体の候補として考えられている複数の物質に対して,超伝導秩序変数ならびにトポロジカルな性質の物理量への顕在化について理論的立場からの解析を遂行する。特に常伝導相および超伝導相での各種物理量における伸張圧縮効果や温度変化などに対し,微視的および現象論的解析手法などを活用して評価・見積もりを行い,超伝導秩序変数ならびに実験結果との対応関係を明示することにより,対波動関数の同定などに関する物性評価への指針を提示する。上記の研究に関して,これまで得られた成果の一部は日本物理学会,学術論文,国際会議およびその会議プロシーディングスなどですでに公表している。さらに新奇な超伝導,磁性,熱電効果などを示す物質群の定量的評価・物質探索を第一原理計算手法などを活用して遂行し,得られた成果の一部のうち,遷移金属酸化物等に対する伸張圧縮効果,磁気秩序状態との関わり合い,および熱電効果などについても国内,国際学会および学術論文および会議プロシーディングスなどで公表している。
2: おおむね順調に進展している
2019年4月の研究開始後,研究に必要な資材として,複数台のコンピュータを導入してクラスター計算機環境の構築を行っている。特に第一原理計算手法による大規模な解析に対し大きな威力を発揮しつつある。まず当初の研究計画であるSr2RuO4を念頭に置いた伸張圧縮効果の研究については,第一原理計算手法により低エネルギー電子状態を調べ,有効模型を構築した。その有効模型を用いて超伝導状態におけるトポロジカルな性質を議論した。そこでは秩序変数に対する圧力効果が,超伝導状態の秩序変数にどのように反映されるかを議論し,対応する端状態を求めた。さらに可能な観測量としての端電流および熱ホール伝導度などに対し,圧力効果と秩序変数の関わり合いを議論して実験結果との対応関係を示すことにより,対波動関数の同定などに関する物性評価の指針を提示し,その詳細を学術論文として報告している。さらに候補物質の一つであるSrPtAsについても核磁気共鳴実験などによる結果と超伝導状態の秩序変数との対応関係について議論を行った。現在SrPtAsと類似の結晶構造をもつ時間反転対称性を破るカイラル型超伝導体になる可能性を秘めた複数の候補物質について,その類似性・多様性を微視的観点から理解すべく,解析に取り組んでいる。そこでは第一原理計算手法等を活用して微視的な電子構造を反映した有効模型の構築に着手している。並行して研究計画のうちの新奇な超伝導および磁性を示す物質群の探索を行い,新規材料としての探索を動機付けに遷移金属酸化物などに対する第一原理計算による解析を行い,磁気秩序状態の変化を明らかにし,国際会議・学術論文などで報告している。またトポロジカル物質における熱電効果とその電子状態についての解析についても日本物理学会で報告している。
時間反転対称性を破るカイラル超伝導の候補は複数あるが,特にSrPtAsならびに類似の結晶構造をもつ物質群に対する結晶構造および対波動関数の対称性と,電子構造の関連性についての研究を引き続き遂行する。今後は第一原理計算手法を活用して構築した微視的な低エネルギー有効模型を用いて,常伝導相ならびに超伝導相について,各種物理量の導出を行い,常伝導相における輸送特性,超伝導相におけるその秩序変数とトポロジカルな性質の関わり合いに対する議論を行う。さらに遷移金属酸化物を念頭に新規超伝導体・磁性体の探索についても第一原理計算手法などを用いて引き続き遂行し,定量的な物性評価を試み,新規物質の物性評価を行う予定である。またより一層の大規模な数値計算を伴う場合も想定されるため,その必要に応じ計算機環境も更新を図ることを想定している。
新型コロナウイルス感染症の影響により参加を検討していた国内,国際学会などが中止またはオンライン開催となったため,当初の計上分の一部が繰り越し金となっている。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
J. Phys. Soc. Jpn. 90, 044703
巻: 90 ページ: 1-12
10.7566/JPSJ.90.044703