研究課題/領域番号 |
19K03726
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
徳永 陽 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (00354902)
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研究分担者 |
青木 大 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30359541)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 強磁性超伝導 / 核磁気共鳴 / ウラン系化合物 / 一軸圧 / スピン三重項超伝導 |
研究実績の概要 |
「磁気ゆらぎによる超伝導」という概念は、強相関電子物性の全般を貫くものである。この概念は現在、広く受け入れられているが、一方でそれを実験で証明するのは簡単ではない。強磁性的なゆらぎと超伝導が強く結びついたウラン系強磁性超伝導は、その格好の舞台を提供している。最近、強磁性超伝導体のひとつであるURhGeにおいて、 外部から結晶にわずかな歪みを与えることで、超伝導転移温度が最大で約2.5倍も上昇することが発見された。本研究ではこの極めてユニークな特性を利用して、新奇な強磁性超伝導の発現機構の解明を行うことを目的としている。 研究初年度となる令和元年は、まず強磁性秩序相における内部磁場を利用してゼロ磁場下でNMR (=NQR)測定を行なった。ゼロ磁場での実験は磁場の直接的影響を排除できるため、常に超伝導理解の出発点となる。このゼロ磁場下での実験は一軸圧に関して独自の技術を持つフランスCEA研究所で行なった。 本研究では一軸圧下で物質内の磁場揺らぎの微小な変化をいかに正確に測定するかという点が重要となる。そのためNMRで観測可能な73Ge同位体濃度を自然存在比の7.7%から90%以上に濃縮したURhGe 単結晶を準備し、高精度での73Ge核NMR測定を行なった。希釈冷凍機を用い、異なる一軸圧下でNMRスペクトルおよびNMRスピン-スピン緩和時間(T2) を測定し、物質中の内部磁場、電場勾配、および強磁性揺らぎのエネルギー変化を調べた。その結果、一軸圧下では内部磁場が連続的変化している一方で、c軸方向の磁気的な揺らぎには大きな変化は見られないことが分かった。本年度はさらに平成30年度末に新たに発見されたウラン系強磁性超伝導体UTe2についてTe核のNMR実験を行なった。単結晶でのNMR信号の観測に成功し、低温での磁気揺らぎの特異な振る舞いと超伝導特性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず当初の予定通り、73Ge同位体濃度を自然存在比の7.7%から90%以上に濃縮したURhGe 単結晶を準備し、高精度での73Ge核NMR測定を一軸圧下で行うことが出来た。期待していた一軸圧力印加に伴う物質中の内部磁場、電場勾配、および磁気的な揺らぎのエネルギー変化を直接観測することが出来た。さらに昨年度末に新たに発見されたウラン系超伝導体のNMR実験を世界に先駆けて行なった。その結果、この物質の磁気揺らぎの特異な振る舞い、およびスピン三重項超伝導状態を微視的観点から初めて明らかにした。その成果を2本の原著論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
強磁性超伝導の発現機構の解明のため引き続きURhGeに一軸圧下でのNMR実験を進める。同時にピエゾ素子を使った一軸圧システムの開発を進める。また関連化合物として新しいウラン系強磁性超伝導体UTe2のNMR実験を強磁場中で行う。最近UTe2では強磁場中で超伝導の増強現象が確認されており、その起源をNMRにより探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で物理学会が中止になったため。またNMR実験の進捗状況を考慮し、予定していた液体ヘリウム等の物品購入を次年度以降に延期したため。次年度使用額は翌年度分として請求した助成金と合わせて、実験の再開時の液体ヘリウムおよび必要物品の購入、旅費に充てる。
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