研究課題
金属強磁性体SrRuO3では、バンド交差によるベリー曲率が運動量空間のモノポールとして振る舞い、その仮想的磁場が異常ホール効果の起源となることが知られている。中性子非弾性散乱実験でスピン波が観測されるが、スピン波のギャップエネルギーは、SrRuO3では非単調な温度依存性を示し、異常ホール伝導度の関数として記述されることが報告されている。このことは、ベリー曲率が中性子非弾性散乱の観測量であることを示している。別の金属強磁性体Nd2Mo2O7では、90KでMoが強磁性転移を起こし、さらに低温でNdがMoに対して反強磁性的に秩序生長することにより、Moがnoncolinearに秩序化し、スピンカイラリティーを生じると考えられ、スピンカイラリティーに対応する異常ホール効果が報告されている。今年度は、Nd2Mo2O7の単結晶試料を用いて中性子非弾性散乱実験でスピン波を観測し、その分散関係の温度依存性を調べた。分散関係からスティッフネス定数DとギャップエネルギーEgが決定できるが、低温になるにつれ、Dはわずかに増大するが、Egは大きく増大する振る舞いが観測された。D(T)は磁化の温度変化に対応できそうであり、Eg(T)の説明には異常ホール伝導度の温度変化が必要である。すなわち、Nd2Mo2O7のスピン波の分散関係の温度変化はSrRuO3と同様の振る舞いを示している。この研究の中心的実験技術は中性子非弾性散乱であり、合わせて、中性子非弾性散乱の高性能化に向けた基礎研究を行った
2: おおむね順調に進展している
概要に記した中性子非弾性散乱実験が進み、その成果を本研究の第一報として、日本物理学会や国際会議等で報告した。中性子非弾性散乱の高性能化に向けては、実験の精度を決める装置の要素について解析や製法の検討を行い、次の検討に向けた基礎データを得た。
概要に記した中性子非弾性散乱実験で得られた結果が、Nd2Mo2O7のスピンカイラリティーによるベリー曲率に起因するものであることを示すために、基礎的なデータの取得をすすめる。中性子非弾性散乱の高性能化に向けては、さらに検討をすすめ、さらなる基礎データの収集を行う。
国際会議(先端中性子源国際協力会議)に出席を予定していたが航空機が台風により欠航し出席できなかった。次年度に、関連する国際会議に出席するため翌年度分として請求した。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 14件、 招待講演 2件)
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