研究課題
本研究は、バンド交差により発生するベリー曲率が物性に及ぼす系の中性子非弾性散乱実験を試みるものである。スピンカイラリティーが予想される金属反強磁性体FeMnでは、γ相(FCC)であるFe0.5Mn0.5(磁気相転移温度TN=465.5K、磁気モーメントμ=1.2μB)とFe0.7Mn0.3(TN=412K、μ=2μB)について、これまで、TNより低温で中性子非弾性散乱実験を広いエネルギー範囲で実施し、動的構造因子が磁気モーメントや交換相互作用でスケールできることを明らかにしたことを報告したが、さらに、新たに整備したクライオファーネスを用いてTNより高温での実験を実施したところ、低エネルギー励起は消失し、高エネルギー励起は存続することを見出した。Ce系ファンデルワールス化合物CeTe3及びCeTe2Seは、ベリー曲率の起源となる反対称性スピン軌道相互作用が発生していて、両系は異なる磁気異方性を示す。結晶場励起を中性子非弾性散乱実験で測定し、磁気異方性と反対称性スピン軌道相互作用との関係を議論して論文発表を行った。強磁性体SrRuO3及びNd2Mo2O7でベリー曲率を中性子非弾性散乱で検出できることを示してきたが、次に、反強磁性体についても同様の研究を試みるために、ベリー曲率により異常ホール効果が発現する反強磁性体Mn3Snの多結晶試料を合成し、中性子非弾性散乱実験を行い、さらに、単結晶試料の合成を試みている。これらの研究の中心的実験技術はJ-PARC MLFに設置された高分解能チョッパー分光器HRCを用いて行う中性子非弾性散乱であり、HRCの高性能化に向けた基礎研究をすすめ、国際会議で発表した。また、HRCにクライオファーネスを整備し、4-700Kの広い温度領域での中性子非弾性散乱実験を可能にし、その性能を国際会議で発表した。
2: おおむね順調に進展している
金属強磁性体Nd2Mo2O7の中性子非弾性散乱実験を行い、強磁性転移温度以下の温度範囲でスピン波分散関係の温度変化を測定した。異常ホール効果及び磁化の温度変化の基礎物性の測定も合わせて行った。中性子非弾性散乱実験も基礎物性測定も解析中である。金属反強磁性体FeMnでは、γ相(FCC構造)の組成の試料で、単結晶試料を用いた中性子非弾性散乱実験を励起エネルギーが10meVから300meVの広い範囲で実施した。動的構造因子をTNより十分低温及びTN以上で測定し、低エネルギー領域と高エネルギー領域では異なる温度変化を示すことを明らかにした。反対称性スピン軌道相互作用を持つCe化合物の結晶場準位を中性子非弾性散乱実験で測定し、物性と反対称性スピン軌道相互作用との関係を議論して論文発表を行った。反強磁性体Mn3Snの多結晶試料を合成し、中性子非弾性散乱実験を行った。単結晶試料の合成も試みている。これらの研究の中心的実験技術はJ-PARC MLFに設置された高分解能チョッパー分光器HRCを用いて行う中性子非弾性散乱であり、HRCの性能評価及び装置整備をすすめた。
強磁性体Nd2Mo2O7のスピン波と基礎物性の解析をすすめ、中性子非弾性散乱実験で得られた結果が、Nd2Mo2O7のスピンカイラリティーによるベリー曲率に起因するものであることを示すための検討を行う。反強磁性体FeMnの磁気励起は、広いエネルギー領域かつ磁気相転移温度の上下で、包括的なデータを得たので、解析をすすめて論文発表を行う。反強磁性体Mn3Snの多結晶試料の磁気励起の温度変化の測定を行ったので、次に単結晶試料の合成をすすめ、実験をすすめる。
補助事業の目的をより精緻に達成するため、追加実験の実施や学会参加、論文投稿を行う。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件)
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