研究課題
本研究では,有機水素結合系強誘電体において,物性発現のために重要なパラメータの一つである圧力効果と誘電応答との関連性を,中性子および放射光X線構造解析によって実空間の構造変調を観測することで明らかにすることを目的としている。2019年度では,低温・高圧下で強誘電性を示す圧力誘起強誘電体[dppz][H2fa](置換ハロゲン:フルオラニル酸)において,単結晶を用いた中性子回折実験の評価を行った。この物質では,水素結合あるいはプロトンダイナミクスが誘電の起源に重要な役割を果たすことが期待されており,精度の高い水素位置の情報が重要である。このため,一様性の高いバックグランドが期待できるアモルファスな金属ガラスを用いたセルを用いた高圧・低温試料環境下での回折実験データの積分反射強度の解析に取り組んだ。信頼性の高いかつ結晶構造解析に十分な数の反射強度データを得るためには弱いシグナルを検出する必要があり,セル由来の散乱が積分反射強度のS/N比に及ぼす影響を検証した。比較的強い反射については,バックグランドは高いものの積分強度自体に大きな影響は見られなかったが,弱い反射については,特に高角の反射で観測が困難なものもあることが分かった。今年度の評価を踏まえ,入射ビームの成形を行うなど装置の改良によりS/Nの向上することで,今後の中性子散乱を用いた高圧セルの評価と高圧・低温試料環境下での構造解析の構築の実現に繋がるものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
2019年度の計画の一つ,圧力・低温下での中性子回折実験データの評価・検証を実施した。圧力セル由来のバックグランドによる弱いシグナルの観測に困難さが残るものおおむね予想の範囲内と考えられ,次年度につながる改良点を見出した。全体としては,おおむね十町に進展しているといえる。
計画に沿って研究を推進していく予定である。今年度の中性子実験おける評価・検証を踏まえ,弱いシグナルのS/N比向上のために,ビームの成形を行うための入射コリメータの導入を図るなど実験装置の改良・適合を図る。精度の高い積分反射強度を得ることで,水素部位の微細な構造変化を明らかにし,誘電の期限を解明する。
(理由)研究実施に必要な高圧・低温試料環境を実現するための物品の購入を予定していたが,仕様の最適化を図るために,現存の機器の評価結果を検討した上で購入を行うことにした。現在仕様の検討を進めている。(使用計画)2020年度以降で,最適化を行ったシステムを導入し,研究に必要な高圧・低温試料環境を整備する予定である。
すべて 2019
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Dalton Transactions
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