研究実績の概要 |
本研究では,酸と塩基から成る水素結合型強誘電体を研究対象として,実空間に直接的に影響を及ぶす外場として温度および圧力に伴う構造変化を観測し誘電応答との関連性を解明することを目的とした中性子およびX線回折実験を実施した。本研究物質の誘電応答にはプロトンが鍵を握るため,水素もしくはプロトンを含めた構造決定を行う必要があり,高効率なデータ収集のためTOF-Laue法と2次元検出器を組み合わせた回折計を用い,また,バックグラウンドの一様性が高いピストンシリンダー型セルを用いることで反射強度の精度の向上を図った。一般的に,有機分子結晶を対象とした圧力下の単結晶構造解析では,反射数の多さや軽元素が寄与するシグナルを検出する必要があるため精密な構造解析は困難とされている。このような中我々は中性子回折法を用いた高圧・低温試料環境下 (P < 2 GPa, 4 < T < 300 K)での単結晶回折実験の手法を構築した。圧力誘起強誘電体[2,5-Difluoro-3,6-dihydroxy-1,4-benzoquinone][H2fa]では,1.27 GPa,35 Kでの回折データで圧力セルおよび結晶の吸収補正を行い構造解析した結果,水素原子位置の構造情報の抽出に至った。得られた構造パラメータによる原子間距離から,高圧・低温相では分子が極性を持つことが示唆された。多くの信頼性の高い反射データを使用することで水素位置や分子配列の構造が明らかとなり,誘電応答が実空間と強く結びついている誘電体にとって重要な知見となった。
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