研究課題/領域番号 |
19K03729
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小野田 繁樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (70455335)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フラストレート磁性体 / 量子スピン液体 / 量子スピンアイス / 理論 / 界面 |
研究実績の概要 |
量子スピン液体では、局在電子スピンが絶対零度でも磁気秩序が生じず、非自明な長距離トポロジカル秩序と新しいゲージ構造が発現する。本研究課題ではこれまで主に、この量子スピン液体の表面・界面でトポロジーが変化するために発現することが期待される様々な新しい現象の研究や、その舞台となる候補物質の理論探索を推進してきた。今年度の研究成果は主に以下のふたつである。 高温量子スピンアイスの候補物質であるスピネル型イリジウム酸化物Ir2O4に対して、その関連物質との界面の電子状態を大規模第一原理計算により推進してきた。昨年度に構造最適化を終えた関連物質と、既知の最適構造のIr2O4を積層した、大規模超構造体の構造最適化を行った。磁性を含まない計算の範囲において、フェルミ準位付近の電子構造がIr2O4単体のものに類似していることが分かった。 量子スピンアイス系を含め、あらゆる物質の界面では、構造的な歪みが生じる。量子スピンアイス系Tb2Ti2O7では、この歪みは局在磁気モーメントの電気四重極モーメントと結合し、その低エネルギー自由度に影響をもたらす。昨年度までに構築した量子スピンアイス系における歪みと電気四重極モーメントの相互作用の効果を取り込んだ理論的枠組みに基づいてて、Tb2Ti2O7における超音波測定結果を定量的に説明する理論を構築した(論文投稿予定)。その結果、この物質における、格子と電気四重極モーメントが強く結合していること、したがって、格子定数や結晶の質によって、その四重極モーメントの性質や、さらには磁性までもが大きな影響を受けることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
量子スピン液体の界面を高温量子スピンアイス系で実現するための、Ir2O4の超構造体の第一原理電子構造計算について、構造最適化に予想以上の時間がかかり、電子間相互作用を取り込んだ磁性の計算まではたどり着けていない。 量子スピンアイスにおけるU(1)量子スピン液体相では、磁化のモノポールがエネルギーギャップをもったボーズ粒子として出現し、仮想電磁場が顕在化する。この仮想電磁場は現実の電磁場と双線形に結合するため、磁化のモノポールの非自明な輸送現象を理論的に発見し、その実験的検証のための準備を行ってきた。そして、その実験結果と理論との比較検討を行う計画であった。コロナ禍のために遅延していた実験が昨年度に行われる予定であったが、コロナ禍による緊急事態宣言に重なってしまい、実験の遂行、実験結果の比較検討が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
Ir2O4超構造体に対するLDA+U法に基づいた電子構造計算を今年度早急に推進し、量子スピン液体候補物質とその界面での磁性を理論的に解明する。 今後はコロナ禍も大分落ち着いて来ること予想されており、社会的な制約も緩和されつつあることから、年度内に上記の計画された実験が遂行される見込みであり、その結果の理論的吟味から、量子スピンアイス・スピン液体相における磁化モノポールの輸送現象について定量的な理論を展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために出張が全くできずにいたため。また、同じくコロナ禍のために実験グループとの共同研究に遅れが生じるなど、成果発表も遅れているため。 未使用額は、研究期間延長によって継続する次年度に、主に本研究課題の研究成果をまとめて発表していく際の(出張を含む)費用として使用していく予定である。
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