研究課題/領域番号 |
19K03730
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
川椙 義高 東邦大学, 理学部, 講師 (40590964)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | モット転移 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
電子間相互作用が強い物質では電子密度(バンドフィリング)と電子の運動エネルギー(バンド幅)を変えることで劇的に電子状態が変化し、高温超伝導、モット絶縁相、異常金属相など多彩な物性を見せることが知られている。これらのパラメータは化学的な組成の異なる複数の試料を作製したり、数万気圧の高圧をかけて制御することが一般的であるため、同一試料で精緻かつ可逆的に変化させることは難しい。本研究は、電気二重層トランジスタの原理によるキャリアドーピングと、トランジスタ基板の曲げひずみを組み合わせ、様々な有機モット絶縁体(反強磁性体や量子スピン液体)におけるバンドフィリングとバンド幅を同一試料で制御し、超伝導をはじめとするモット転移近傍の電子状態を調べることを目的としている。令和元年度は反強磁性モット絶縁体を対象として実験を行い、モット絶縁相近傍に超伝導相がどのように分布しているかを調べた。基板曲げひずみの制御により試料をモット転移近傍に導き、電子または正孔ドーピングを行うことで、狙い通り両極性超伝導を観測することができた。ひずみを微調整しながら詳細に電気抵抗を測定することで、超伝導相が期待通りモット絶縁相を囲んでいること、しかし予想に反して超伝導相の分布が電子側と正孔側で著しく非対称であり、特に電子側では狭いドーピング領域で急峻な超伝導転移が見られることが明らかになった。共同研究による数値計算によれば、この非対称性は電子間相互作用を考慮しないときのバンド構造と密接に関連しており、電子側は一次相転移、正孔側は二次相転移であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、反強磁性モット絶縁体において両極性超伝導を実現し、電気二重層トランジスタと基板曲げひずみ制御を組み合わせる実験手法の有効性を十分に示すことができた。令和2年度以降に研究対象を様々な物質に広げる準備が整ったといえる。このため研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、令和元年度に得られた両極性超伝導の性質をさらに調べるとともに、当初の計画通り研究対象を長距離磁気秩序を示さないモット絶縁体である量子スピン液体に広げて超伝導相図と磁気秩序の関係を調べる。並行して、有機ディラック電子系などの、モット絶縁体以外の試料の条件出しを開始し、令和3年度の測定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画ではひずみ制御のためのナノポジショナーを購入し研究を加速する予定であったが、他機関へ異動したため取りやめ、既存のひずみ制御装置を現在の環境に合わせて改造することとした。次年度使用額と当該年度以降分として請求する助成金を合わせ、スクロールポンプやソースメジャーユニットを購入して測定環境を整備し、ひずみ制御装置の改造費用に充てる予定である。
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