研究課題/領域番号 |
19K03732
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小田 研 北海道大学, 理学研究院, 教授 (70204211)
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研究分担者 |
戸田 泰則 北海道大学, 工学研究院, 教授 (00313106)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 銅酸化物高温超伝導 / STM/STS / ポンププローブ時間分解分光 / 擬ギャップ / 電子系変調構造 |
研究実績の概要 |
銅酸化物高温超伝導体における電子系の大きな特徴の一つはフェルミ面の二分性であり、そのフェルミ面は擬ギャップ(PG)が発達するゾーン境界付近の領域(アンタイノード(AN)領域)と超伝導ギャップ(SCG)が開くアーク状の領域(フェルミアーク(FA))に分けられる。本研究では、実空間と時間空間の双方から「PGを伴う電子状態と高温超伝導の発現との関係性の解明」を目的として、Bi系銅酸化物高温超伝導体Bi2212で走査トンネル顕微鏡分光(STM/STS)とポンプ・プローブ時間分解分光(PPTS)を行っている。本年度に得られた成果の概要を以下に記す。 1.STM/STSによる研究では、AN領域における2種類の電子系変調構造(ペアリングギャップ程度の低エネルギー状態(ペア密度波(PDW)状態)を反映するチェッカーボード変調(CB変調)とPG程度の高エネルギー状態を反映するd構造因子密度波(dFF-DW))の共存関係について詳細に調べ、両者は変調構造を特徴づける局所振幅と局所位相という点で強い実空間相関を示すことが明らかとなった。この結果は、CB変調とFA上の準粒子干渉(QPI)による変調との強い実空間相関(前年度に得られた成果)を考え合わせると、Bi2212の3種類の電子系変調構造は実空間で相互に関わっていることを示唆するものと考えられる。 2.PPTSによる研究では、高強度超短パルス光照射によりBi2212のPGとSCGを局所的に破壊し、その後の両者の形成過程を時間分解で調べている。今年度は、最適キャリア濃度のBi2212でPGの発達を制御してPPTSを行った結果、PGの発達の程度に関わらず、FAでのSCGの形成はAN領域のPGが完全に回復してから始まること、すなわち、両者の形成過程に明確な時間相関があり、超伝導はPG状態と時間空間においても共存して起こることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、Bi2212におけるSTM/STSとPPTSの両実験から得られる電子状態に関する時空間情報を基に、「PGを伴うアンタイノード領域の電子状態がフェルミアークでの高温超伝導の発現に関わっているか?」という問題を解明することである。これまでの研究では、アンタイノード領域における特性エネルギーの異なる2つの電子系変調(CB変調(PDW)とdFF-DW)は、ファルミアークにおける超伝導QPI変調と明確な時空間相関を示し、時空間において共存することが実証された。これはアンタイノード領域の電子状態がフェルミアークで起こる高温超伝導に深く関わっていることを示すものであり、したがって、本研究の目的はおおむね達成された。また、本研究は、アンタイノード領域の電子状態がペアリング相互作用に関与するのか、あるいは、超伝導転移温度を高めることに寄与するのかなど、フェルミアークで起こる高温超伝導とどのように関係するのかという新たな問題の提起へと発展することとなったが、これも大きな成果と考えられる。以上から、本研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
以上の項目で記したように、本研究は、その目的がおおむね達成され、また、アンタイノード領域の電子状態がペアリング相互作用に関与するのか、あるいは、超伝導転移温度を高めることに寄与するのかなど、フェルミアークで起こる高温超伝導とどのように関係するのかという新たな問題を提起することとなった。他のBi系銅酸化物高温超伝導体Bi2201に関するPPTSの予備的な実験では、PG(を担う)準粒子の応答と超伝導準粒子の応答をBi2212におけるよりもさらに明瞭に区別できることが明らかとなっている。そこで、今後はBi2201系でSTM/STSとPPTSの実験を行い、本研究で提起された上記の問題を解明するための知見を得る。 2022年度は、これまでの結果に上記の研究で得られた結果も加えて総合的に考察し、PGを伴うアンタイノード領域の電子状態とファルミアークで起こる高温超伝導との関わりの詳細について明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、国際学会に参加するための海外出張旅費および、国内で開催される日本物理学会や研究会等に参加するための国内出張旅費に充てることとしていた。しかし、昨年度と同様に、新型コロナウイルス感染拡大防止への対応から、これらの学会等は現地開催からオンライン開催へと変更になったため、それらの参加旅費が未使用となった。 これらの未使用分は、2022年度に開催される学会・研究会に参加するための旅費とする他、液体ヘリウム寒剤使用料やオープンファシリティー測定装置使用料に充てる予定である。
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