研究課題
本研究の目的は、フェルミ面の二分性という特徴を持つ銅酸化物高温超伝導体において、走査トンネル顕微鏡分光(STM/STS)とポンプ・プローブ時間分解分光(PPTS)を行い、これらにより得られる電子系の時空間情報を基に、「擬ギャップ(PG)を伴うフェルミ面領域(アンタイノード(AN)領域)の電子状態が他方のフェルミアーク(FA)領域で起こる高温超伝導の発現機構に関わっているか」という問題を解明することである。前年度までに実施したBi系銅酸化物Bi2212における研究では、AN領域における特性エネルギーの異なる2つの電子系変調(ペア密度波を反映するチェッカーボード変調とd構造因子密度波)は、FAにおける超伝導準粒子干渉変調と明確な相関を持って時間と空間の両領域で共存することが示された。本研究では、上記の電子系変調の時空間相関が普遍的な性質であることを明らかにするため、他のBi系銅酸化物Bi2201においても同様の実験を行っているが、今年度はPPTS実験で進展が得られた。Bi2201のPPTSによる研究では、高強度超短パルス光照射によりAN領域のPGとFA領域の超伝導ギャップ(SCG)を実空間の局所領域で破壊し、その後の両者の形成過程を時間分解で調べている。LaあるいはEuを10%オーダで添加することによりPGの発達の程度を制御したLa-Bi2201とEu-Bi2201でPPTSを行った結果、PGの発達の程度に関わらず、FAでのSCGの形成はAN領域のPG状態が完全に回復してから始まること、すなわち、両者の形成過程に明確な時間相関があり、超伝導はPG状態と時間空間においても共存して起こることが明らかとなった。以上に記したように、本研究により得られた結果は、AN領域の電子状態がFAで起こる高温超伝導に深く関わっていることを示すものであり、したがって、本研究の目的は概ね達成された。
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