研究課題/領域番号 |
19K03733
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
黒澤 徹 北海道大学, 理学研究院, 助教 (10615420)
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研究分担者 |
桃野 直樹 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (00261280)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 銅酸化物高温超伝導体 / STM/STS / 強磁性揺らぎ |
研究実績の概要 |
本研究では、試料に一軸のストレスを加えた状態でSTM実験を行えるサンプルフォルダーを作製し、銅酸化物高温超伝導体をはじめとした強相関物質の新たな電子状態の探索を目的として研究を進めている。今年度は、初年度に試作した試料に一軸のストレスを加えてSTM/STS実験が行えるサンプルフォルダーによる低温STM/STS実験を予定していたが、低温での測定を安定に行うための改良が中心となり、十分な測定回数をこなすことができなかった。また、測定に用いるBi系銅酸化物高温超伝導体の単結晶育成と従来のSTM/STS実験を継続して行った。 Bi系銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2CuO6+xにPbを置換したPb-Bi2201の純良な単結晶育成を行い、超伝導が消失する過剰ドープ領域における電子状態について詳細に調べるために、低温STM/STS実験、電気抵抗、ホール係数の測定を行った。As-grownと酸素アニールを施したTc(ホール濃度)が異なるPb-Bi2201の単結晶試料は、STM実験からどちらの結晶も先行研究と同様に、Bi-O面に特徴的な1次元の変調構造がPb置換により抑制されていることが確認できた。また、電気抵抗測定からは先行研究と同様に電気抵抗の温度依存性は単純なフェルミ液体のモデルに従わず、2次元の強磁性揺らぎを考慮したモデルによく合う結果となった。STM実験では、当初目的としていた電子系の変調構造を観測するには至らなかったが、STS測定の結果から非超伝導状態にも拘らず空間的に不均一なギャップと空間的に均一なギャップの2種類のギャップを観測することができた。これらのギャップは擬ギャップや強磁性揺らぎと何らかの関係があると考えられ、超伝導の消失する過剰ドープ領域における電子・スピン状態を考えるうえで興味深い結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の後半から始めたBi2201の過剰ドープの単結晶育成では、非超伝導の良質な単結晶試料を作製することに成功し、従来のSTM測定を行うことができた。一方で、初年度に作製した試料に一軸のストレスを加えることが出来るサンプルフォルダーを用いて低温でのSTM実験を試みたが、安定したした測定を行うことができず、サンプルフォルダーの改良が中心となってしまった。低温でのストレスを加えた試料でのSTM実験の進行度合いから現在までの達成度を「(3)やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、今年度改良を行ったサンプルフォルダーを用いてBi系銅酸化物高温超伝導体のSTM実験を低温で行う予定である。低温での実験が困難である場合、室温で電荷密度波が出現している強相関物質についてストレスを加えた試料でのSTM実験を並行して行うことも計画している。また、過剰ドープ領域のBi2201単結晶試料の育成を継続して行い、銅酸化物高温超伝導体の過剰ドープ領域における強磁性揺らぎと電子構造を明らかにするためにSTM実験にも取り組む予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、学会や国際会議が中止やオンラインでの開催となったために参加するための旅費として計上していた費用がかからなかったことによる。また、STM/STS実験や結晶育成などの回数が予定していたよりも少なくなったため消耗品費が、当初の予想よりも少なくなったため次年度に繰り越しとなった。
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