本研究は、試料に一軸性のストレスを加えた状態でSTM実験をできる試料フォルダーの開発を行い、銅酸化物高温超伝導体を中心に強相関電子物性物質における新たな電子状態の探索を目的としている。本年度は、開発した試料フォルダーを用いて低温のSTM/STS実験を実施することに加えて、Pb置換を施したBi2201単結晶試料の育成及び低温STM/STS実験を継続して行い、過剰ドープ領域における電子状態を調べた。 Pb-Bi2201のSTM実験では、本来の正方格子を反映して4回対称の原子像が得られると期待されるが、銅-酸素面を反映する低バイアスのSTM像においては4回対称ではなく部分的に2回対称的である領域のある原子像が観測された。周期構造をより詳細に調べるためにSTM像にフーリエ変更を行った結果、フーリエスポットの強度に差が生じていることが確認できた。この結果は、銅酸化物高温超伝導体の過剰ドープ領域においても不足ドープ領域と同様に、電子系の対称性について4回対称が破れている領域が存在していることを示唆する結果と考えられる。対称性の破れが生じた理由としては、添加したPbがディスオーダーとして銅-酸素面の電子系に乱れを生じさせていると考えられる。銅酸化物高温超伝導体の特有の擬ギャップ状態は、電子ネマティック相であり電子系の4回対称性が破れているとの報告があることから、過剰ドープ領域においても不足ドープ領域で擬ギャップが発達するアンチノード領域の準粒子状態がディスオーダーの影響を受けて対称性が破れるとの結論に至った。 試料フォルダーの開発については、液体窒素温度での性能を調べるためにストレインゲージを用いて歪みの大きさを評価した。試料に加わる歪みに関しては、ストレインゲージで測定可能な大きさが生じていることを確認でき、低温でも歪みを加えてSTM実験を行える試料フォルダーを作製することができた。
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