研究課題/領域番号 |
19K03734
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
柴山 義行 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20327688)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子渦 / 渦輪 / 超流動ヘリウム / 低温物理学 / 量子渦 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,超流動ヘリウム4中に数,形状,運動方向を制御した量子渦輪を発生できる量子渦輪発生器を開発し,量子渦の研究に対し新たな研究手段を実現することである. [1] 液体ヘリウム温度(約3 K)・真空中で量子渦輪発生器駆動機構に用いる圧電振動板の振動特性を測定し,量子渦輪発生に充分な駆動速度で圧電振動板を駆動させるための条件を探索した.用いた直径15 mmの圧電振動板((株)村田製作所製,7BB-15-6)では,約10 kHzに鋭い共振ピークが存在することを確認した.その駆動速度は励起電圧50 mVpp程度までの範囲で励起電圧に比例し,約150μm/sに達した.渦輪発生のためのノズル径を0.1 mmとし,永合らによる振動細線の結果と同じ臨界速度(約360 mm/s)がノズル近傍で実現することで量子渦輪が発生すると仮定した場合,渦輪発生に必要な圧電振動板の駆動速度は約16μm/sと見積もられる.従って,励起電圧により圧電振動板駆動速度を容易に制御でき,量子渦輪発生のための駆動条件を充分達成できることを確認した. [2] 量子渦輪発生器の試作を行った.また,その試作品において,周囲に流体が存在し渦輪発生のためのノズルによりその流体の運動が制限されるという条件において圧電振動板の応答がどのような影響を受けるか確認するため,予備実験として古典流体である液体チッ素(77 K)中での試作品の動作確認を行い,圧電振動板の振動特性に対する流体の存在の影響について検討を行った.粘性流体中では圧電振動板の運動は大きく抑制された.しかし,1 Vpp程度の励起電圧で現在我々が渦輪発生の臨界速度の目安と考えている360 mm/sに達し,低温の流体中でも圧電振動板を問題なく大振幅で駆動できることを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初,2019年度の研究計画では, (a) 量子渦輪発生器駆動部に用いる圧電振動板の,液体ヘリウム4温度での振動特性の測定,量子渦輪生成条件の決定, (b) 液体ヘリウム4の排気冷却による最低温度1.5 Kまでのクライオスタットの製作, を計画していた.(a)に関しては研究実績の概要で述べたとおり予定通り量子渦輪発生条件を決定し,用いた圧電振動板でその条件を充分満たせることを確認した.一方,(b)に関しては2019年度期首から日本国内における液体ヘリウム供給事情が極端に悪化し,計画的に液体ヘリウムを購入することが困難となった.そこで研究計画を一部変更し,2020年度以降取り組む予定であった(c)量子渦輪発生器の試作,を前倒しして取り組んだ.研究実績の概要で述べたとおり,流体の存在により圧電振動板の運動は大きく抑制されるが,励起電圧を充分大きくすることで量子渦輪発生条件を満たせることを明らかにした. 当初計画の一部を実施できなかったが,2020年度以降に実施予定であった研究計画を実施し,一定の成果を得たことから,やや遅れている,と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度試作した量子渦輪には,動作上大きな問題は生じなかったが,配線の取り回しに一部複雑な箇所があり,断線などのトラブルが生じた場合に修理が困難な構造となっている.2019年度に生じたトラブルとその対処の経験を活かして装置のデザインを見直し,トラブルが生じにくく扱いやすい装置の設計を行う.また,本装置で渦輪が発生した場合に期待される,圧電振動板のエネルギー散逸現象がどのように観測されるか,圧電振動板の真空中及び流体中での挙動の変化,特に励起電圧依存性の測定から検討を行う. これまでの成果に関しいくつかの研究グループとディスカッションを行った結果,圧電振動板を共振周波数付近で駆動した場合に発熱により超流動状態が破壊される可能性があるという助言を頂いた.共振条件から大きく外れた周波数で駆動を行うとそのようなことは起こらないので,ヘルムホルツ共鳴を利用して圧電振動板を駆動する装置の開発にも取り組む. また,日本国内における液体ヘリウム供給事情の変化に大きく依存するが,液体ヘリウムの減圧排気により1.5 Kまで実現できるクライオスタットの製作に取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,2019年度に液体ヘリウム4の排気冷却による最低温度1.5 Kまでのクライオスタットの製作を計画していた.しかし,2019年度期首から日本国内における液体ヘリウム供給事情が極端に悪化し,計画的に液体ヘリウムを購入することが困難となった.そこで研究計画を変更し,クライオスタットの製作を2020年度に実施することとした.この次年度使用額と翌年度分として請求した助成金とを合わせて,液体ヘリウム4の排気冷却による最低温度1.5 Kまでのクライオスタットの製作を行う計画である.
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