本研究の目的は超流動ヘリウム4中にサイズ,数,運動方向を制御した量子渦輪を発生できる量子渦輪発生器を開発し,実験的に量子渦のダイナミクスを解明する新たな研究手段を実現することである.内径0.1 mm程度のノズルからパルス的に超流動ヘリウムを噴出させることで,サイズ,数,運動方向の3つ全てを制御することを最終目的とした.超流動ヘリウムのパルス的噴出機構には圧電振動板を用いた.また,本研究の遂行のため,ガラスデュワーを用いたヘリウム4減圧型クライオスタットとそのガスハンドリングシステム(目標温度1.5 K)を新たに開発した. 3 Kで圧電振動板の振動特性を測定し,その共振周波数(約10 kHz)で圧電振動板を駆動速度約150μm/sで励起できることを確認した.これは量子渦輪発生に必要な駆動速度(約16μm/s)より充分大きく,励起電圧の制御により量子渦輪の発生を制御できることを見出した.一方,共振周波数での駆動は,その内部摩擦による発熱のため超流動が破壊される可能性が明らかとなった.この発熱を抑えるため,圧電振動板の共振の代わりにヘルムホルツ共鳴を駆動機構とした量子渦輪発生器の試作を行った. 開発したクライオスタットは最低到達温度1.3 Kで,1.4 Kを安定して8時間以上持続でき,本研究の実施に充分な能力を持つことを確認した.試作した量子渦輪発生器(ノズル径φ0.3 mm)を超流動(1.32 K)および常流動(4.228 K)ヘリウム中に浸しその振動特性の挙動の違いから,量子渦輪発生の有無を検証した.常流動中では圧電振動板の振動振幅は単に励起電圧に比例するだけだが,超流動中ではある閾値以上の励起電圧で振動振幅やQ値が大きく減少することを見出した.他研究グループの振動細線による量子渦輪発生実験と同様な現象であり,本装置でも量子渦輪が発生していることを確認した.
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