研究実績の概要 |
『多極子』とは、固体中の電子状態に起因する電荷・磁荷分布の異方性を特徴づける物理量である。近年、強相関電子系化合物に多数見出されている「隠れた秩序(Hidden Order)」を解明する上で、高次多極子が重要な鍵であることが分かってきた。『充填スクッテルダイト(filled skutterudite, FSK)』は、こうした多極子研究において最も重要な物質群の一つでり、中でも特筆すべき現象として、PrRu4P12 , SmRu4P12 が示す局在f電子の持つ多極子自由度と結晶場状態に依存した遍歴電子との混成効果が関与する金属-非金属転移が知られている。本研究では、これらの現象に関する近年の研究の新展開を踏まえて、SmRu4P12および関連物質を対象とした。高圧合成法により、純良試料の合成を行い、中性子散乱、核磁気共鳴(NMR)などの微視的な実験研究と理論的研究により、FSKにおける多極子自由度が関与する異常物性の発現機構の解明を目的とした。本研究の成果は、強相関電子系の多様な秩序状態の解明はもとより、新規磁性材料の開発の基礎にも繋がってゆくことが期待される。 このような研究目的の下、本年度はマルチアンビルプレスを用いた高圧合成法により、充填スクッテルダイト化合物SmRu4P12のRuサイトを低濃度のRhで置換したSm(Ru1-xRhx)4P12, HoFe4P12, ErFe4P12の試料合成を試み、純良な試料の合成に成功した。さらに、得られた試料に関する磁化、電気抵抗、比熱等の基礎物性測定を行い、これらの試料の温度磁場相図を得ることができた。Sm(Ru1-xRhx)4P12では、少量のRh置換がII相への転移を大きく抑制することが分かった。また、HoFe4P12、ErFe4P12における磁気転移は、その磁場依存性から多極子自由度の関与があるのではないかと考えられる。
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