研究課題
本研究の目的は、空間反転対称性の破れた伝導系物質における電流誘起磁化に起因した新規な電気磁気効果(電流と磁気の結合現象)の開拓と物理機構の解明である。従来、主に絶縁性物質では電気磁気効果の研究が進んでおり、マルチフェロイクスと呼ばれる分野を確立している。マルチフェロイクスでは電気分極と磁気の結合が重要な役割を果たす。一方、伝導電子により電気分極が遮蔽される伝導系物質においても、電気磁気効果は存在すると期待されるが、その具体的な形態や物理現象は解明されていない。本研究では電気磁気効果の発現が期待される空間反転対称性の破れた半導体や伝導系反強磁性体に着目し、さらに試料の微細加工等によって電流密度を大幅に上げることで、従来は観測できなかった新規な電流誘起現象の観測を目指す。2020年度は、初年度に実験的観測に成功した空間反転対称性を破った半導体における強磁場量子極限での特異な非相反抵抗、ならびにカゴメ反強磁性体における時間反転対称性を破った拡張磁気八極子に由来するX線磁気円二色性の結果などについて、モデル・理論解析を行い物理機構の理解を深めた。また磁気構造で空間反転を破る反強磁性金属磁性体を用いた微細加工試料作製と非相反抵抗測定等を行った。その結果金属反強磁性体においては、磁気秩序に伴って非相反抵抗が変化する結果を捉え、本研究で主題とする電流誘起磁化と磁気との結合に起因する現象を観測することができた。
2: おおむね順調に進展している
上記のように、2020年度は初年度に実験観測に成功した空間反転対称性破れに起因する伝導現象に関してそのモデル・理論解析を通じて物理機構の理解を格段に進めることができた。さらには磁気構造で空間反転を破る磁性体において微細加工試料の作製を行い、磁気転移に伴う非相反抵抗の変化を観測した。これらの結果は学術的な新規性も高く、伝導系物質における電気磁気効果の統一的理解に大きく貢献するものである。
これまで主に、結晶構造や磁気構造が空間反転対称性を破る系での非相反抵抗を測定し、強磁場での非従来型の振る舞いなどを観測した。このことは非相反抵抗のより深い理解には従来考えられてきたモデルよりも多くの要素を考慮する必要があることを示唆している。2021年度はこれまで得られている結果についてモデル解析等を進めると同時に、対称性破れのタイプが異なる系などでの実験を進め、電流誘起磁化と磁気との結合で生じる非相反抵抗の統一的な理解を目指す。
コロナウイルスの影響により当初予定していた国内外学会への参加旅費が不要となったが、次年度は成果取りまとめの年でもありその費用として使用する。
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Physical Review B
巻: 103 ページ: 125108
10.1103/physrevb.103.125108