研究課題/領域番号 |
19K03738
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
中野 岳仁 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (50362611)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アルカリ金属 / ナノクラスター / スピン軌道相互作用 |
研究実績の概要 |
ゼオライト結晶のナノ空間を用いてアルカリ金属クラスターを作成できる.電子は1s,1pなどのクラスター量子準位を占有する.A型ゼオライト中のKクラスターでは,1p準位の軌道縮退によりスピン軌道相互作用(SOI)が顕著に増大した.クラスター表面での局所対称性の破れに起因するラシュバ機構を提案している.この研究を発展させ,本研究ではSOIのアルカリ元素種依存性と,空間反転対称性の有無の効果について実験を行い,s電子系ナノクラスターにおけるSOI発現機構の原理的な理解を深めることを目的としている.R3年度は以下の研究を進めた. ゼオライトA中のRbクラスターにおいて電子数nを細かく変化させた試料に対し,昨年度の5本に加えて10本について液体ヘリウム温度までのESR測定を行なった.また,新たにCsクラスターについても10本の試料について同様の測定を行なった.Rbクラスターのn<2では,ESR線幅がKクラスターの10倍以上広く,自由電子のg値からのシフトもKクラスターの約5倍であった.またn=2を超えると急激な線幅の増大とg値の低下が見られた.例えば100 Kでは,n=5付近でKクラスターと比べて線幅が約30倍,gシフトが約10倍になり,顕著な重元素効果が観測された.Csクラスターにおいても線幅は同様の傾向を示し,Rbよりもさらに広がった.n<2におけるg値もさらに低下した. K, Rb, Csクラスターのn = 1付近のgシフトは各孤立原子のp軌道のSOIでほぼスケール出来た.クラスター内の陽イオン上で局所発生するSOIが重要であることを示唆する.K, Rbクラスターのn > 2における重元素効果は原子よりも強いことが分かった.また,n > 2ではどの試料でもg値が顕著に温度変化する.陽イオンの熱振動によってクラスターの対称性が動的に変化し,1p軌道の縮退に影響を及ぼすと理解できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細孔の構造が空間反転対称性もつゼオライトA中のK, Rb, Csクラスターについては電子濃度を全域で細かく変化させた試料について,液体ヘリウム温度までのESR測定を2021年度までにほぼ全て終えることが出来ている.これにより,スピン格子緩和に由来するESR線幅や,g値のシフトと言った,スピン軌道相互作用に直接関係する物理量の,電子濃度依存性とアルカリ元素依存性に関しての全貌が定量的に明らかになった.定性的には当初予想の通り,クラスターの1p準位の軌道縮退の効果が非常に大きいことが分かった.また,重元素効果も明確に観られた.このようなスピン軌道相互作用の増強の機構について,実験結果を定量的に説明するモデルの構築を現在進めている. 細孔の構造が空間反転対称性持たないゼオライトlow-silica X (LSX) 中のKクラスターについては,室温での実験と解析がほぼ終わっており,低温までの実験を次年度に実施し,ゼオライトA中のアルカリ金属クラスターとの比較を行う. 本研究の研究対象物質の成果について,解説論文を1件発表し,国際学会発表を2件(うち1件は招待講演),国内学会発表を2件(うち1件は招待講演)行った.
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今後の研究の推進方策 |
ゼオライトlow-silica X (LSX) の細孔の構造は空間反転対称性持たない.このため,その中に作成したアルカリ金属クラスターの量子準位のパリティの混成が起こることが期待され,そのことがクラスターのスピン軌道相互作用にどのような影響を及ぼすかに興味が持たれる.2022年度はゼオライトLSX中のKクラスターについて重点的に研究を行う.電子濃度を全範囲で細かく変化させた試料の作成と室温でのESR測定は2021年度まで終えているので,定温までの測定を実施する.結果を解析し,ESR線幅(スピン格子緩和時間)とg値からこの系のスピン軌道相互作用の電子濃度依存性と温度依存性の情報を定量的に得る.この結果と,細孔の構造が空間反転対称性もつゼオライトA中のKクラスターの結果を比較することにより,クラスター電子軌道のパリティ混成がスピン軌道相互作用に与える影響について明らかにする. これらの結果を,国際会議を含めた学会で発表するとともに,投稿論文としてまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度までにゼオライトA中のアルカリ金属クラスターの実験をほぼ全て終えることが出来たものの,ゼオライトlow-silica X (LSX) のアルカリ金属クラスターの低温実験までは完了しなかったので,液体ヘリウムの消費量が当初予想よりも少なかった.また学会が全てオンラインであったため旅費の使用が少なかった.これらのために次年度使用額が生じた.2022年度はゼオライトlow-silica X (LSX) のアルカリ金属クラスターの実験に掛かる消耗品と,学会発表のための旅費,論文投稿料に予算を使用する計画である.
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