研究課題/領域番号 |
19K03740
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大久保 毅 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任准教授 (00514051)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | テンソルネットワーク / キタエフ模型 / スピン液体 / 有限温度物性 / フラストレート磁性体 / 熱ホール伝導度 |
研究実績の概要 |
昨年度までの研究で高精度の有限温度計算が可能であることを明らかにした、有限サイズの二次元系に対する一次元テンソルネットワークによる密度行列の近似手法を活用し、本年度は主に、キタエフ模型の熱ホール伝導度の特徴を中心に詳細に解析した。 キタエフ模型の基底状態は、秩序を持たないスピン液体状態になっており、磁場中では、系の端を流れる熱流により、温度勾配とは直交した方向に熱が流れる熱ホール伝導を示すことが知られている。近年、α-RuCl3などの物質で、磁場中において、Kitaev型の相互作用に起因すると考えられる非磁性状態が現れ、このキタエフ模型のスピン液体と整合する、半整数に量子化された熱ホール伝導度も観測されている。本研究では、開発した有限温度物性の計算方法を磁場中のキタエフ模型に適用することで、実験での振る舞いと対応する様な、有限温度で半整数の量子化値を超える程大きな熱ホール伝導度が現れることを明らかにした。また、実際の物質にも存在していると考えられる、非対角の相互作用の影響も検討し、これらの相互作用の符号により、熱ホール伝導度が大きく影響を受けることを明らかにした。 加えて、同様の手法をカゴメ格子磁性体や Shastry-Sutherland 格子磁性体にも適用した。これらの磁性体では、 Dzyaloshinskii-Moriya 相互作用の影響で、有限の熱ホール伝導が現れることが期待されているが、テンソルネットワーク法を用いた計算でも、有限温度で熱ホール伝導現象が観測されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有限サイズの二次元系の密度行列を一次元のテンソルネットワークで近似する手法を用いることで、キタエフ模型における有限温度の熱ホール伝導の振る舞いを明らかにできた。また、同様の手法を別のフラストレート磁性体にも適用し、手法の有用性を確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
カゴメ格子磁性体、 Shastry-Sutherland 格子磁性体における、 Dzyaloshinskii-Moriya 相互作用由来の熱ホール伝導の解析を進め、今年度の成果であるキタエフ模型での熱ホール伝導も含めて、実験との比較を積極的に行い、新しい物理の理解につなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により参加を予定していた学会・研究会の多くがオンライ開催となったため、旅費が大幅に節約でき、次年度繰越が発生した。この次年度使用額は、積極的な成果発表のための旅費、学会参加費などに当てる予定であるが、新型コロナウイルスの状況によっては、研究を加速するための計算資源費用にも用いる。
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