研究課題/領域番号 |
19K03741
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
藤森 淳 早稲田大学, 理工学術院, 客員教授 (10209108)
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研究分担者 |
溝川 貴司 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90251397)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / 非弾性X線散乱 / 角度分解光電子分光 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、プロテクトアニールした電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体Pr1.3-xLa0.7CexCuO4(PLCCO)(組成x=0, 0.1)単結晶試料の酸素K吸収端における軟X線非弾性散乱(RIXS)実験を進めた。超伝導を示すx=0.1試料で音響プラズモンの励起が観測されたのに対して、新たに測定した電気抵抗の高いx=0非超伝導試料では音響プラズモン励起が観測されず、x=0.1試料で観測された構造が音響プラズモンによることを確認できた。 続いてPLCCO x=0.1試料のフォノン励起ピークと、電荷秩序を示す弾性散乱ピークを調べ、Cu-Oボンド伸縮型フォノンの観測と、強度が温度依存する電荷秩序ピークを観測した。x=0試料でもフォノン励起が観測されたが、x=0.1試料に比べてその強度は弱く、電子キャリアーのドーピングによって電子-格子相互作用が増強されていることが示された。 また、ホールドープ型銅酸化物高温超伝導体La2-xSrxCuO4(LSCO)およびストライプ型電荷・スピン秩序が強く表れるLa2-x-yNdySrxCuO4(LNSCO)の酸素K吸収端RIXS測定を行い、電荷秩序ピーク付近で低いエネルギー(< 20 meV)の電荷揺らぎを観測した。その温度変化の理論計算との比較から、電荷揺らぎが量子臨界的に振る舞うことが示された。 さらに、プロテクトアニールPLCCOについて超伝導体積分率の小さい x=0.05試料の顕微ARPES測定を行い、ドープ量の低い電子ドープ型高温超伝導体に特徴的なフェルミ面を観測するとともに、ドープ量と電子状態の空間的な不均一性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス感染拡大のため放射光施設のある台湾への渡航が不可能であったが、放射光施設および施設スタッフの配慮により、2回のビームタイムにわたってリモート実験を実行できたため、実験は順調に進展しているが、データ解析は予定より遅れている。 成果発表に関しては、投稿したPLCCOのARPES、鉄系超伝導体と同じ結晶構造を持つ磁性半導体の光電子分光などの論文を出版することができた。RIXSに関しては、LSCOの第1報(音響プラズモンの観測)、第2報(量子臨界的電荷揺らぎの観測)を投稿中であるが、査読期間が長くなり出版には至っていない。PLCCOのRIXSに関しては、現在第1報の投稿を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
既に測定した電子ドープ型高温超伝導体PLCCOのRIXSデータの解析から、電荷秩序ピーク付近の波長におけるフォノン異常や電荷揺らぎを抽出し、超伝導機構や量子臨界的振舞いに関するホールドープ型との差異・共通点を明らかにする。これと並行して、これまでRIXSデータを蓄積してきたPLCCOプロテクトアニール試料の母物質と考えられるアニール前のPLCCOx=0試料のRIXS測定を行い、d-d遷移、モット・ギャップ間遷移を含めたPLCCO系全体の電子状態の統一的理解を行う。 また、高温超伝導体の発見以来の重要な課題となっている擬ギャップに関して、RIXSスペクトルの電荷励起部分と電荷揺らぎ超伝導の理論モデルを詳細に比較することによって形成機構の解明を試みる。理論が予測するRIXSスペクトルの超伝導による大きな変化を、Bi2Sr2CaCu2O8+d(Bi2212)の酸素K端および銅L端RIXSの測定による検出を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大により、参加予定であった国内学会・国際学会が延期またはオンライン開催となったため。翌年度は学会出席のための出張と実験参加のための出張が増えるので、それに充てる。
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