研究課題
前年度に引き続き、プロテクトアニールした電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体Pr1.3-xLa0.7CexCuO4(PLCCO)(組成x=0, 0.1)単結晶試料の酸素K吸収端における軟X線非弾性散乱(RIXS)実験を行い、電荷秩序によると思われる強い弾性散乱ピークを見出した。現在、その発現機構について検討を進めている。Bi2Sr2CaCu2O8+d(Bi2212)の酸素K端および銅L端でRIXS測定を行い、超伝導点移転上下でのスペクトルの巨大な変化を見出した。この変化は、電荷揺らぎ機構(エキシトン機構)に基づいた超伝導理論が予測するもので、超伝導が消えた高温で開いている擬ギャップの効果が超伝導の発現とともに消えることを観測したと解釈できる。この結果により、本研究の当初目的であった電荷揺らぎ超伝導機構の解明に大きく近づいたと考えている。同じくBi2212試料のネマティック状態をARPESで調べ、RIXSで明らかにされる電荷秩序・電荷揺らぎとネマティック状態の関連を検討している。また、電子ドープ型鉄系高温超伝導体PrFeAsOのARPES測定を行い、バルクとは逆にホールがドープされた表面電子状態の超伝導ギャップと擬ギャップを明らかにした。超伝導体以外の量子物質として、スピンと軌道がエンタングルした基底状態とヤン-テラー変形した基底状態が競合しているとされてきたスピネル型CuAl2O4を銅 L端RIXSで調べ、ヤン-テラー変形を支持する結果を得た。
3: やや遅れている
今年度予定していた台湾での放射光リモート・ビームタイム2回のうち1回が学生の体調不良によりキャンセルとなったため、PLCCOの母物質と考えられるx=0 PLCCO試料のRIXS測定ができなかった。同じ理由により、PLCCOのRIXSのデータ解析と論文の執筆が遅れている。参加予定であった国際学会が新型コロナのため延期となり、成果発表も遅れている。一方、LSCOのRIXS論文は、第2報(量子臨界的電荷揺らぎの観測)が受理・掲載され、第1報(音響プラズモンの観測)も間もなく受理される見通しである。さらに、当初計画になかった銅酸化物超伝導体Bi2212にRIXS測定を拡張したところ、「研究実績の概要」に記したように大きな進展があった。同じくBi2212試料のネマティック状態をARPESで調べた論文が受理された。
PLCCOに関して蓄積したRIXSデータを国際会議で発表し、論文を出版する。LSCOにおける量子臨界的電荷揺らぎのRIXS研究を継続し、さらに量子臨界点に近い組成の試料を調べる。今後の最重点課題はBi2212のRIXSで、電荷揺らぎ(エキシトン)超伝導機構、擬ギャップ形成機構の解明を目指す。具体的には、RIXSスペクトルの温度依存性、入射X線エネルギー依存性、散乱角(運動量移行量)依存性、ホールドープ量依存性を系統的に調べ、並行して進んでいるモデル計算、第一原理計算との比較を行う。擬ギャップの形成機構に関しては、同じBi2212試料で観測されているネマティック状態との関連も常に念頭に進める。
新型コロナウィルスの感染拡大により参加予定であった国際学会が延期となり、放射光実験がキャンセルされたため。次年度は国際学会出席、実験参加、解析ソフトの購入に充てる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 9件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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