研究課題/領域番号 |
19K03742
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
那須 譲治 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (40610639)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子スピン液体 / 非平衡ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、量子スピン液体の非平衡ダイナミクスに焦点を当てて研究を行っている。量子スピン液体においては、スピンの分数化によって、マヨラナフェルミオンやエニオンと呼ばれる特殊な準粒子励起が生じることが知られている。その創発準粒子は通常のスピン自由度を持たないため、単体で観測することが非常に困難である。本研究では、その準粒子を個別に観測する方法として、非平衡ダイナミクスを利用することを提案し、その理論構築を行うことを目的に研究を進めている。本年度では、特にキタエフ量子スピン液体に注目して、具体的に以下の成果を得た。 キタエフ量子スピン液体の端にパルス磁場を印加することで、磁気励起を行いその後の時間発展を計算した。その結果、系全体に磁場を印加している場合には、端に導入した磁気励起によって、磁化変調が波となってもう片方の端に伝播する。一方で、系に磁場を印加していない場合には、内部で磁化変調が生じないことが明らかになった。内部で磁化が変調していないにもかかわらずもう片方の端にはある時間経過後に磁化変調が発生することわかった。詳しい解析の結果、磁気パルスによる励起は、量子スピン液体内部ではマヨラナフェルミオンによって伝播されていることがわかった。もう片方に現れる磁化変調の遅延時間はマヨラナフェルミオンの速度によって決定され、また、マヨラナフェルミオンは量子スピン液体においてギャップレスのため、長距離で磁気パルスによる励起が輸送されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、量子スピン液体の非平衡ダイナミクスを明らかにするために、キタエフ模型に対する磁気励起後の時間発展を詳しく調べている。磁気励起として、特に、片方のエッジに磁気パルスを導入した場合の時間発展を計算して、その励起が、磁化変調を生じさせずにマヨラナフェルミオンによってのみ伝播されることを見いだした。また、マヨラナフェルミオンがギャップレスの分散関係を持つことから長距離のスピン輸送が起こることがわかった。 以上の成果が得られていることから、現在までの進捗状況として、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの量子スピン液体に対する磁気パルスの導入による励起ダイナミクスの実時間発展の計算は、量子スピン液体内部に不純物が導入されていないときに行われたものである。実際は、乱れの効果が長距離のスピン輸送にどのように影響を与えるかを明らかにする必要がある。また、量子スピン液体においては、マヨラナフェルミオンだけでなく、エニオンと呼ばれる準粒子も存在する。その影響に関しても詳しく調べる必要がある。これらの効果を取り入れるためには、計算方法を実空間に拡張しなければいけないため、今後はこの計算に注力したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度においては、計算自体は順調に進んでいるが、参加予定だった研究会や国際会議が中止もしくはオンラインになり、研究者との直接の議論の場も少なくなっている。本年度で得られた研究成果やそれを推進するための議論のための旅費などについては次年度以降に使用することを予定している。また、大規模数値計算に載せるまでの並列化プログラムの作成に若干時間を要しており、計算機の導入も後ろ倒しにすることにした。
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